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"十年の沈黙と離婚届" 第4話

私は気づかぬふりを続けました。 浮気を問い詰めることも、の匂いに顔を顰めることもしませんでした。 ただ、脱ぎ捨てられた夫の革靴のを落として揃え、え切った噌汁を鍋で温め直し、朝番で夫が袖を通す背広の肩にスチームアイロンを当てて、皺つない状態に伸ばしておくだけでした。

なぜ、そこまでして耐えたのか。 その理由は、私の胸の最もい所に、揺るぎない杭として打ち込まれておりました。 、宗方のへと嫁いだその、私は自らの魂とつの厳格な契約を交わしていたのです。 「この宗方というが、見の格式の裏で体どのような本性を隠し持っているのか。その真実を、私自の両目で見届け、底の底まで測りきるまでは、決してかない」と。

まだそのではない。 ただそれだけを胸の内で反芻しながら、私は毎、黙々と皆の膳を運び続けました。

折、私が宗方の事業や、世のの経済のきについて控えめにをくことがございました。 方都のさな商社である宗方の経営状態が、決して盤ではないことを、私は々の数字の端々からじ取っていたからでございます。 けれど、私がしでも経営の話題に触れようとすると、卓を囲むは、決まったように顔を見わせて嘲笑うのでした。

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「はっ! 無能なおに、商売の何が分かるっていうんだ?」

孝幸が、ビールグラスをテーブルにドンと叩きつけるように置いて言い放ちます。 「学をてから度も社会にたことがない女が、ったようなを利くな。おは黙って、飯の配と便所の掃除だけをしていればいいんだよ」

宗方の会社の決算や仕入れ伝票の数字に、らかな飾や無理な帳簿操作の兆候が見て取れたも、私が「仕入れ先の掛け率が、し自然ではありませんか」と言すれば、返ってくるのはたい嘲弄だけでございました。 義父は、に持っていた檀の扇子を膝のでパチンと鋭く鳴らし、眉を吊りげて吐き捨てました。

「女が経営を語るなど、片腹痛いわ! 先祖代々、この域の経済を支えてきた宗方のやり方に、どこの馬の骨ともれん娘がを挟むな!」

私はそれ以言葉をねず、「過ぎたことを申しました」と湯呑みを引き、線を畳へと伏せました。 けれど、伏せられた私の瞳の奥で、私の脳は休むことなく回転しておりました。 彼らがテーブルのに散らかしていった仕入れの伝票、取引からの融資の案内、売の報――その数字のすべてを、私は毎晩、族が寝静まったの暗い台所で、円の端数に至るまで克にのの帳簿へとき写していたのでございます。

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義父の受けている法な顧問料。 現に度もたことのない孝幸の兄に支払われている役員報酬。 会社の経費として処理されている義母の豪奢な代。 それらの数字は、実に雄弁に語っておりました。この会社がいかに杜撰な縁故によってい荒らされ、実態のない虚栄のに成りっているかを。 彼らは自分たちの才覚で会社を回していると信じ込んでおりましたが、帳簿をめくれば、その台骨が体誰の恩恵によって支えられているのかは目瞭然でございました。 けれど、私はそれを指摘しませんでした。 彼らが自らので自らの首を絞め、破滅の罠にを踏み入れるその瞬を、私は静かに見つめ続けていたのでございます。

宗方のたちの私に対する侮蔑が、もはや修復能な極限に達したのは、梅の終わりの、激しいがりしきる夜のことでした。

夜のを回った頃、で鳴が轟き、敷のい戸を叩くの音が轟々とうねりをげておりました。 居の机には、酒の匂いをプンプンとち昇らせた孝幸と、腕組みをした義父、そしてどこか勝ち誇った笑みを浮かべた義姉が座っておりました。 私が夜の茶漬けを運んでまいりますと、孝幸はそれを受け取ろうともせず、胸ポケットからつ折りにされた枚のを引き抜きました。

そして、私の目のの卓へ、滑らせるように放りしたのでございます。

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