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"十年の沈黙と離婚届" 第6話

受話器を握る相の指先に力が入ったのか、わずかに擦れの音が響きました。もの、公のから姿を消し、からグループの舵取りだけを指示していた最権力者のの声に、の声は歓と緊張で微かに震えておりました。

「急がず、けれど滞りなく、筈通りにめてください」

私は、朝のが差し込む庭のびを見つめながら、を交えぬ平坦な声で指示を伝えました。

「まず、宗方物産、宗方エンジニアリング、そして宗方リテール……グループ傘にある宗方族の関連企業、計社に及ぶ取引関係および資本提携の再審査をいます」

私は、孝幸が所属する営業部の取引先、義父が名ばかりの役員報酬を得ている関連会社の顧問待遇、義母が私物のように買い物を繰り返しているグループ傘の老舗百貨の特別商座、そして義姉が名義だけを置いてを貪っている広告代理の企画――そのすべてを、つずつ淀みなく読みげていきました。

そのすべてが、私が束ねる企業グループの、広な傘のに収まっている枝葉に過ぎなかったのです。 私が社名をつ挙げるたびに、受話器の向こうから返ってくるの返事は、く、そして鋭利なものへと変わっていきました。

『……かしこまりました』 『直ちにグループ監査部および法務部を招集いたします』 『承いたしました、会』

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余計な言葉は交わされませんでした。 最に、私は言だけ付け加えました。

「慌てる必はありません。あくまで法令と社内規定に則り、適正かつ淡々とめなさい」

『御にございます』

通話が終わるまで、わずか分でございました。 カチャリと静かに受話器を台に戻す音が、気の途絶えた静かな廊にさく響きました。

私は台所へ戻り、え切っていた鉄瓶の湯を湯呑みに注ぎ、喉を潤しました。 障子のでは、昨までのが嘘のようにれがり、初の爽やかな陽が庭の青葉を鮮やかに照らししておりました。 い、私はこの暗い台所の隅で、黙りこくってにまみれた皿を洗い続けてまいりました。私のの指先は、のあかぎれと洗剤のせいで、荒れて赤くなっておりました。 けれど――その同じが、たった本の話によって、今、本経済の角を担う数兆円規模の巨企業グループをかしたのでございます。

宗方のは、誰もその事実をりませんでした。 らせる必も、これまではございませんでした。 自らの名をにひけらかして威張り散らすような浅ましい権力など、私は最初から求めておりませんでした。真の力というものは、誇示するものではなく、ただ静かに、くそこにあるものだからでございます。

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私が束ねていたグループの傘には、直系・傍系わせてもの企業が連なっておりました。 業のから、国際貿易を担う商社、歴史ある老舗百貨に至るまで、の至る所で見かける名な板の数々も、その根元を辿れば、すべて私の祖父が代で築きげ、父から私へと託されたつの巨な幹から分かれた枝葉でございました。 そこで働く社員やその族の数は、優に数万を超えておりました。

孝幸が「俺の営業力で取ってきた」と豪語していたの取引も、元を辿れば、私の署名つによって認されたグループ内調達の枠組みに過ぎませんでした。 義父が親戚同に自していた名企業の最顧問という肩きも、私が義理てとして決済印を押してやったからこそしていた名誉職に過ぎなかったのです。

「無能な嫁だ」「役たずだ」「宗方のに置いてもらっている居候だ」 彼らはそう言って、毎のように私を嘲笑いました。 その侮蔑の言葉を全に浴びながら、私は彼らの喉笛を、彼ら自の活の命脈を、自らののひらのに静かに握り続けていたのでございます。 度として、その握りしめたの内を彼らに見せることはございませんでした。

彼らは、あまりにも愚かでございました。 自分たちが毎見し、で踏みつけにしていた女こそが、自分たちの豪奢な暮らしと、威張り散らす肩きのすべてを底から支えている唯の黒柱であるなどとは、像すらしていなかったのでございます。

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