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"十年の沈黙と離婚届" 第9話

傲という名の病は、常に元を見つめることを忘れた者に訪れます。 今、彼らは初めて、自らがどれほど脆く、たい虚無のにっていたのかを、骨の髄までいることとなったのでございます。

ドサリと、鈍い音が居に響きました。 孝幸が、力なく畳のに膝をつき、両をに擦り付けるようにして、私を見げてまいりました。

「……た、頼む……! ……いや、咲子! 頼むから、婚の話は……なかったことにしてくれ! 俺が……俺がどうかしていたんだ!」

かつて胸を張り、股で歩き、私を顎で指図していたあの尊な男の面は、どこにもございませんでした。 その声は、私がよくるあの威圧な夫の声ではなく、鞭に怯える野良犬のような、見苦しい掠れ声でございました。 命令と罵倒ばかりを吐きしていたそのが、今はべたにいつくばり、惨めに許しを乞うているのでございます。 彼の震える指先が、私の着物の裾へすがりつこうと伸びてまいりましたが、私の徹な線に射すくめられ、空でピタリと止まりました。

私は、座布団のから静かに彼を見ろしました。

「……あなたが私を『無能』とお呼びになった、私は度も言い返しませんでしたわね」

「お、俺たちは……夫婦だったじゃないか! も緒に暮らしてきた夫婦のがあるだろ!?」

「いいえ」

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私は、片の迷いもなく首を横に振りました。

「あなたは私を、度たりとも対等なとして、妻として見てくださったことはございませんでした。ただの便利な使用として、自らの自尊を満させるための具として見ていただけです」

孝幸は、その言葉にぐうの音もせませんでした。 分の歳が凝縮された私のたい宣告が、鋭利な刃となって彼の胸を貫いたのでございます。 反論する言葉を求めて彼の唇がわなわなと震えておりましたが、そのから漏れたのは、もはやをなさぬ呻き声だけでございました。

沈黙だけが、居を満たしておりました。 私は彼を鳴りつけているのではありませんでした。ただ、厳然たる事実を、つずつ机のに並べ直しただけでございます。 私の胸には、激しいりも、溢れる涙もございませんでした。議なほど、は凪のように静まり返っておりました。 泣くべき涙など、い昔、あのたい井戸端で、誰にも見られずに疾(と)うに流し尽くしていたからでございます。

というが、馬灯のように私のを静かに通り過ぎていきました。 え切った卓の噌汁、無され続けた私の言葉、数え切れないほどのさな侮辱との傷。 それらの過酷な々のすべてが、らずらずのうちに、私というを何者にも決して揺るがぬ、靭な所へと押しげてくれていたのでございます。

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踏みつけられれば踏みつけられるほど、そののは固く締まり、揺るぎない礎となるのです。

私は、すがりつこうとする孝幸のを、切取ろうとはいたしませんでした。 すっとちがり、背を向けた私のろから、彼が涙声で私の名を呼ぶのが聞こえました。

「咲子……! 頼む、咲子……かないでくれ!!」

その叫びには、かつて私を震えがらせたあの威勢の欠片も残っておりませんでした。 けれど、私は度と振り返りませんでした。 振り返るべき理由が、私ののどこにも、もうつとして残されていなかったからでございます。

グループの真の力がきしたことをり、宗方の族が先にのひらを返そうと狂奔し始めたのも、その頃のことでございました。 職と収入を完全に断たれた族は、誰として自力で稼ぐ術を持たず、文字通りに迷うこととなりました。

これまで彼らを取り巻いていた取引先のや、お追従を並べていた取り巻きたちは、宗方がグループから絶縁されたという噂をにするや否や、潮が引くように瞬でってまいりました。 の縁とは、所詮そのようなものなのでございます。と権力に群がっていた烏の衆は、餌が尽きれば瞬でびっていくのです。私はそれを、い会の窓から、ややかな差しで静かに眺めておりました。

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