みかん小説
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"廃業寸前の豆腐屋に来た東大院卒の母親" 第7話

かれた奥の部の扉との族写真

翌から、閉の厨が試作に変わった。

最初に作ったのは、向のリクエストだった豆腐ハンバーグだ。

「できたぞ」

俺が、湯気をてる皿をテーブルに置くと、向が目を輝かせた。

「ハンバーグ!」

「豆腐ハンバーグな」

俺が訂正する。

向はスプーンを持ち、ふーふーと息を吹きかけてから、パクリとべた。

美咲と俺は、なぜかして、向の顔を固唾をんで見つめていた。

向は、もぐもぐと咀嚼し、ごくりとみ込んだ。

「美しい!」

向の顔に、満面の笑みが広がる。

「本当か?」

俺がを乗りすと、向はこくりと頷いた。

「うん。でも……もっとカリカリがいい」

向は、スプーンの背でハンバーグの表面を叩いた。

「カリカリ?」

美咲が、苦笑いした。

「厳しい審査員ですね」

「おが見させるからだろう」

俺は肩をすくめた。

だが、向のその言で、俺は焼き方を変えてみた。

表面をばしく焼きげることで、確かにが格段に良くなった。

え、豆腐入りつくね、季節の野菜を使ったがんもどき。

美咲は、栄養のバランスを計算しながらレシピのベースを提案し、俺が職の勘でをえていく。

「塩、もうし減らせませんか?」

美咲が、鉢に入ったえを見して言う。

「これ以減らしたら、がぼやけるぞ」

俺が反論する。

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「じゃあ、汁の配を変えます。昆布をめにして……」

「簡単に言うなよ」

「試すから諦めるんですか?」

美咲が、挑戦な目で俺を見る。

「誰が諦めるって言った?」

俺は、ムキになって汁を取り直した。

毎晩、そんな調子の試錯誤が続いた。

そして週。

必な準備をえ、の角に量の惣菜を並べた。

最初は、個だけ。

夕方には、全て売り切れた。

翌は、個。

それも、見事に完売した。

「お豆腐さんで、夕飯のおかずまで買えると助かるわ」

そんな声をかけてくれる客が、しずつ増えていった。

だが、美咲は売をぶよりも、客の反応をノートに細かく記録することにしていた。

「まだ何かやるのか?」

俺が呆れて聞くと、美咲はペンをらせたまま答えた。

「売れたから終わりじゃありません。何を買ったが、もう度来てくれるかを見たいんです」

「研究者ってのは、面倒くせえな」

「褒め言葉として受け取ります」

美咲は、悪びれずに笑った。

俺は呆れたが、は確実に変わり始めていた。

活気が戻り、俺自の気持ちもしずつを向くようになっていた。

ある晩。

で、しだけ豪華な夕飯をべた。

テーブルのには、試作をねて完成した特製の豆腐ハンバーグが並んでいる。

「これ、向が考えたんだよね!」

向が、得げに胸を張る。

「違う。おは、いたいって言っただけだろ」

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俺が突っ込みを入れる。

「でも、向が言わなかったら作らなかったでしょ?」

向が、を尖らせる。

「まあ、そうだな」

俺が苦笑すると、向は満面の笑みを浮かべた。

「じゃあ、向のおかげ!」

「はいはい、そうですね」

美咲が、優しく笑って向のを撫でた。

その笑い声を聞きながら、俺は妙な気分になっていた。

こので、誰かと緒に夕飯をべる。

笑い声が響く卓。

そんな当たりのことを、俺は数以していなかった。

「修ちゃん、お代わり!」

向が、空になった茶碗を突きした。

いつのにか、俺の呼び名が「おじちゃん」から「修ちゃん」に変わっていた。

「自分で取れ。すぐそこだろ」

俺が顎で炊飯器をしゃくると、向はちがった。

「届かないもん」

向は、炊飯器の横にある皿を取ろうとして、バランスを崩した。

タタタッと、がもつれて廊の奥へっていく。

「あ、向、そっちっちゃだめ!」

美咲が声をげたが、遅かった。

ガチャリ。

廊の突き当たり。

い、俺がけていなかった部の扉がいてしまった。

俺は、弾かれたようにちがった。

「向!」

自分でも驚くほど、きくて鋭い声がた。

向が、扉のでビクッと固まる。

部のには、さな学習机。

褪せたクマのぬいぐるみ。

そして、棚のに置かれた枚の族写真。

若かりし頃の俺と、妻の由美。

その真んで、満面の笑みを浮かべる歳の千。

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美咲が、慌てて向を追いかけ、部のを見た。

そして、棚のの写真に線を釘付けにした。

「娘さん……?」

美咲が、かすれた声で呟いた。

俺は、答えることができなかった。

喉の奥がカラカラに乾いていた。

「ごめんなさい」

向が、今にも泣きしそうな顔で俺を見た。

「向、こっちへ」

美咲が、向を引き寄せる。

「く」

俺は、怯えた向の顔を見て、ようやく全の力を抜いた。

「いい。もういいんだ」

俺は、ゆっくりと部に歩み寄り、棚のの写真をに取った。

写真の表面の埃を、指でそっと拭う。

「妻と、娘だ」

俺は、写真から目をさずに言った。

美咲は、向を抱きしめたまま黙っていた。

「。事故でんだ」

俺の声は、ひどく平坦だった。

「千は、歳だった」

美咲が、息をむ音が聞こえた。

向と全く同じ齢だと、気づいたのだろう。

「じゃあ、あの……」

美咲が、震える声で言葉を紡ぐ。

俺は、写真を見たまま答えた。

「ああ。向を見て、瞬だけ千に見えた」

美咲の目が、気に潤むのがわかった。

「だから……私たちを、泊めてくれたんですね」

「最初はな」

俺は、そこで言葉を区切り、写真を元の所にそっと戻した。

「今は違う」

そう言いかけただった。

ジリリリリ!

の話が、けたたましく鳴り響いた。

静まり返ったのに、その音が異様にきく響く。

「俺がる」

俺は、廊を引き返し、受話器を取った。

「はい、神豆腐です」

「夜分遅くに申し訳ありません。美咲さんは、いらっしゃいますか?」

男の声だった。

俺は、受話器を持ったまま美咲を見た。

美咲の顔から、瞬にして血の気が引いていた。

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