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"廃業寸前の豆腐屋に来た東大院卒の母親" 第9話

おからの焼き菓子と失いたくないもの

俺は、商を全速力で駆け抜けた。

息が切れるが、構わずをかす。

駅へ向かうの途で、方にのろ姿を見つけた。

ボストンバッグを抱えるように持つ美咲と、リュックを背負ってトボトボと歩く向。

「美咲!」

俺は、声で名を呼んだ。

振り返った美咲が、驚きに目を見張った。

「修ちゃん!」

向が、俺の姿を見るなり駆け寄ってきた。

俺は、び込んでくる向のをガシッと押さえた。

「勝にいなくなるな」

俺は、息を切らしながら美咲を睨みつけた。

「でも……」

美咲は、ずさりした。

「私がいたら、修さんのおに迷惑がかかります」

「もう、分かかってる」

俺は、歩踏みした。

「え?」

「朝のから使い荒くこき使われて、勝に惣菜始められて、毎晩売の数字まで見せられて。分迷惑だ」

俺は、気にまくしたてた。

美咲は、呆気にとられた顔をした。

「それ……全部、修さんのおが良くなるための話ですよね?」

「うるせえ」

俺が鳴ると、元で向がケラケラと笑った。

俺は、真っ直ぐに美咲を見た。

「のことなら、俺が決める。途で投げす方が、よっぽど迷惑だ」

俺は、を差しした。

「戻ってこい」

美咲の目から、粒の涙がこぼれ落ちた。

「いいんですか?」

「度も言わせるな」

俺は、照れ隠しのようにそっぽを向いた。

向が、俺のをぎゅっと握った。

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「帰ろ、修ちゃん」

そのさなの温もりに、俺の胸はくなった。

へ戻った俺たちは、まず目のにある問題をつずつ理することから始めた。

「私は、会社代の研究資料は切使っていません」

美咲は、テーブルのにノートを広げた。

「今作っているお惣菜も、このに来てから、修さんと緒にから試作して作ったものです。その過程を記録したノートも、全てここにあります」

俺たちは、そのノートを持って瀬に会いにった。

瀬は最初は疑いの目を向けていたが、緻密に記録された試作の過程と、俺の職としての証言を聞き、ようやく納得した。

「誤解していたようだ。すまなかった」

瀬がをげたことで、法な問題や企業からの圧力という最悪の事態は回避された。

だが、度止まった元の取引は、すぐには元に戻らなかった。

「結局、振りしか」

俺がため息をつくと、美咲は力く首を振った。

「違います」

美咲の目には、かつての自信が戻っていた。

「何が違うんだ?また豆腐が売れ残ってるじゃないか」

「振りしなら、私たちは豆腐しか売るものがありませんでした。でも今は違います」

美咲は、厨の隅を見た。

そこには、豆腐を作る過程で毎量にる「おから」が、袋に入れられて積まれていた。

「お惣菜を作る技術があります。お客さんの好みのデータがあります。

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それに……これもあります」

美咲は、おからの袋を指差した。

「おから?から気になってました」

美咲はノートをいた。

そこには、おからを使った試作案がびっしりとき込まれていた。

「豆から豆腐を作れば、どうしてもおからがます。でも、これだけ栄養価がくてべられる部分なのに、そのくを捨てているなんてもったいないです」

「だからって、卯のにしたところで、そんなに量に売れるもんじゃねえぞ」

俺の言葉に、美咲は敵に笑った。

「卯のだけなら、です」

「に何ができるって言うんだ?」

俺はその言葉に、聞き覚えがあった。

惣菜を始めたと、全く同じやり取りだ。

美咲が腕を組んで考え込んでいるところへ、向がやってきた。

には、保育園のおやつでもらったさなクッキーを持っている。

「ママ、これ半分あげる」

向がクッキーを差しすと、美咲は受け取ろうとしてピタリときを止めた。

クッキーを見る。

そして、おからのを見る。

「……そうだ」

美咲が、パチンと指を鳴らした。

「今度は何だ?」

俺は、ため息をつきながら聞いた。

「おからを、おかずだけに使う必はないですよね」

美咲の目が輝く。

「まさか……」

「焼き菓子にもできます」

美咲は、ノートに猛烈な勢いで計算式をき始めた。

「麦の代わりに使って、にも練り込める。配を調すれば、ヘルシーな軽にも、子供のおやつにもなります」

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「おからでクッキーか……そんな簡単にくか?」

俺が疑暗鬼で聞くと、美咲は顔をげた。

「簡単じゃありません」

美咲は、真っ直ぐに俺を見た。

「だから、やるんです。修さんの勘と、私のデータで」

そこからの週は、を始めて以来、番忙しい々だった。

おからをたっぷりと練り込んだ豆腐ハンバーグ。

季節の野菜とわせた、鮮やかなおからサラダ。

そして、様々なフレーバーのおからクッキーやパウンドケーキ。

美咲は、分の量やの配を変えてはノートに細かく記録し、俺が焼き加減やを直していく。

「分がすぎます。がまとまりません」

「じゃあ、豆乳の量をパーセントげます」

美咲が卓を叩く。

「数字じゃなくて、ってみろ。のの分が全部持ってかれるぞ」

「べたで、データとして数字にしているんです」

美咲が反論する。

「めんどくせえな」

「そのめんどくさいを、わざわざ駅まで追いかけて連れ戻したのは誰ですか?」

美咲がニヤリと笑う。

俺は、何も言い返せなかった。

そして、最終試作の。

オーブンから、ばしい匂いが漂ってきた。

こんがりと焼きがったおからクッキー。

向が、々のクッキーをかじった。

俺と美咲は、息を殺して向の顔を覗き込む。

「どうだ?」

向は、し難しい顔をした。

「……おからっぽい」

「だめか……」

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俺が肩を落とすと、向はパッと笑顔になった。

「でも、すっごく美しい!」

美咲が、ホッと胸を撫でろした。

「じゃあ、あと歩ですね」

その、俺はいした。

最初のもそうだった。

この子は、豆腐や豆の識なんて何つらない。

だからこそ、先入観なく純粋にを見ることができる。

俺は、美咲の配表をひったくるように見た。

「美咲」

「はい」

「に練り込む豆腐の量を、し増やせ」

「でも、それだと分がくなりすぎて……」

「作り方を変える」

俺は、腕をまくった。

「どうやって?」

「豆腐には、豆腐のやり方があるんだよ」

俺は、クッキーに使う豆腐の切りの程と、オーブンのの入れ方を根本から変えた。

職としての勘。

の声を聞きながら、分をばしていく。

美咲が、その程を数値化して記録し直す。

もう度、オーブンに入れる。

焼きがったしいクッキー。

向がべる。

「美しい!」

向の目が真ん丸になる。

「おからっぽくないか?」

「うん!サクサクしてて甘い!」

美咲も、かじった。

そして、目を見いた。

「これです……!」

美咲が、俺を見た。

「私じゃ、このは絶対に作れませんでした」

「俺だって、おがいなきゃ、おからなんか全部捨ててたよ」

俺が言うと、美咲は嬉しそうに笑った。

研究者の識だけでもない。

職の勘だけでもない。

ようやく、つの力がつになった。

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