"「死産」と告げた院長と20年目の出生記録" 第2話
彼女たちの声と音が、次第にざかっていく。
私はを止め、ゆっくりと息を吐いた。
吐いた息だけが、ほんのしく濁った。
児。
あの部のを通るのが、20経った今も、私は1番苦だった。
赤ん坊の泣き声を聞くたびに、私は自分ののひらを見つめてしまう。
私はモップからをし、自分の両を目のにかざした。
何も抱いたことのない、空っぽののひら。
私は顔をげ、ガラスの向こうへ線を向けた。
若い母親らしき女性が、ベビーベッドのそばにっていた。
さな赤ん坊のが、空を掴むようにかれている。
彼女はまれた瞬、私の胸に1度も抱かれていない。
私は目を閉じ、もう1度モップの柄を握った。
腕をかし、を拭き続ける。
目を閉じたままでも、ここがどこかわかる。
の継ぎ目の数も、壁の擦り傷の位置も、私は全部覚えている。
あのの分娩も、これと同じ匂いがした。
夕方、破した、助産師が私の顔を覗き込んだ。
「もうすぐですよ」と彼女は言った。
けれど、その目は械のモニターを見つめるようなたさだった。
それからもなく、私は識を放した。
目が覚めた、そばにっていた医師が私の顔を見ろしていた。
あのの医者は、「残でした」と械のように言った。
「産でした。胎児は染予防のため、このまま処理いたします」
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私は声をそうとしたが、喉の奥が張り付いたみたいにかなかった。
私は両を伸ばして、何かを掴もうとした。
たい空気だけが、私の指のをすり抜けた。
助産師が私の腕を掴み、シーツのに戻した。
静かな力で、無理やり押さえつけるように。
だから、私は信じなかった。
指先に残ったのは、たい空気だけじゃなくて、確かなぬくもりだった。
私は産声を聞いたはずだった。
麻酔の奥で、かすかに。
誰にも言わなかったけれど、あの泣き声は私のの底に焼き付いている。
休憩は、午の仕事が終わった1045分。
私はのさな控へ向かった。
パイプ子に座り、自分の提げ袋にを入れる。
から、古いロケットを取りした。
真鍮製の、さな楕円型。
私は親指でカチリと押しげた。
蓋がいた。
には、さな指輪が1つ入っている。
赤ん坊の指にすら、ギリギリ入るかどうかというきさのの指輪。
20、産の1週に、区のさなで買ったものだ。
私はその指輪をそっと指先でなぞった。
あのから、この指輪を入れるべき指を探している。
突然、控のドアがいた。
私は慌ててロケットを握りしめ、胸元に隠した。
入ってきたのは、同じ清掃員の斎藤さんだった。
斎藤さんは議そうな顔で私の元を見た。
「あんた、またそれ見てるの?何の入れ物?」
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私は無理に角をげ、静かに答えた。
「昔のものです」
彼女はそれ以追求せず、自分のロッカーから筒を取りした。
私はロケットをそっと袋に戻し、ちがった。
「5階の廊、もう1度見てきます」
斎藤さんはあきれたように肩をすくめた。
「もう、働き者すぎるっていつも言われるでしょう」
私はドアのノブにをかけた。
「体をかしていた方が楽なので」
私は軽く会釈をして、控をた。
歩くたびに、胸元でロケットがかすかに揺れるのが分かった。
Yシャツの、肌のに、それはさくていを持っていた。
私は音を忍ばせ、の古い倉庫が並ぶ区画へ向かった。
そこは普段、清掃員でもち入りに許がいる所だった。
けれど、今はたまたまのドアの鍵がかかっていなかった。
私は振り返って、ろにがいないことを確かめた。
それから、静かにへ入った。
物置き部には、段ボール箱が積みになっていた。
ほこりっぽい空気が、モップの消毒液の匂いをかき消す。
私はその奥にあるさな扉のでを止めた。
へ続く階段の扉。
普段は厳に鍵がかかっている。
けれど、私は気づいていた。
その鍵を定期にけ閉めしている物が、なくとも2いることに。
1は施設管理の男。
もう1は、かつて護部をしていた澄子という老女。
彼女は、退職したはずだった。
私はしゃがみ込み、扉ののに指で触れた。
指先に溜まったほこりとは違う、しい擦り跡があった。
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