"貧乏老人を嘲笑った行員の末路" 第10話
次郎は机の引きしから枚の便箋を取りした。
「それと、私財を投じて財団をつちげる。シニアと若い員の渡しをする組織だ。倉持、準備をめてくれ」
「会、その財団の名はいかがいたしましょう?」
「クオンふれあい財団としよう。私が若い頃に教わった、ととの触れいの切さ。それを次の世代に継ぐにしたい」
「素らしいお名でございます」
次郎はゆっくりと頷いた。窓の、町のかりが夕ので静かにまたたき始めていた。
季節がつ巡り、世界は穏やかな替えを済ませていた。あの激の事件から数ヶが経ち、本の厳格な研修期を無事にやり遂げた篠崎希の取りは、どこか軽やかでありながらも、以より層引き締まっていた。彼女がとして配属されたのは、クオンホールディングス本社ビルの層階に設されたばかりの「クオンふれあい財団」の窓だった。
広々としたフロアにを踏み入れると、目の温かみをかしたカウンターや、シニア層がゆったりと腰掛けられる質なソファが然と配置されていた。この財団は、かつてボロボロの当て布ジャケットをにまとって窓に現れた会・久音次郎が、自らの私財を惜しみなく投じてちげた組織である。その設の目は確だった。
広告
それは、デジタル化や効率化の名のに希になりがちなシニア層と、経験の浅い若員たちとのにい対話のを架け、互いのを理解しうための学び舎を提供することだった。希は設されたカウンターの背にち、自分の名が刻まれた真しい真鍮の名札にそっと指先を触れた。窓の向こうには、これからここでたな歩を踏みす々を迎えるための静かな空が広がっている。
財団が掛けた記すべき最初の事業は、皮肉にもかつて希がを置いていた定営との共同による「シニア顧客対応研修プログラム」の設だった。数字や効率ばかりを追い求め、顧客の見た目や預額だけでを判断するような傲さを根絶やしにするため、定営の若員たちは定期にこの財団へと派遣され、研修を受けることが義務づけられたのだ。
その研修の様子を、毎欠かさず温かく、しかしどこか戒めのこもった差しで見守る物がいた。かつては同の取締役として君臨し、あの祥事の責任を背負って引責辞任寸まで追い込まれながらも、組織のて直しのためにと取締役の職にとどまることを許された羽義そのだった。
羽は、かつてのようにな態度でふんぞりかえることなど度となかった。
広告
彼は自ら理事のとしてこの財団の現にを運び、若員たちがシニア層の顧客に対してどのように言葉をかけ、どのような表で向きっているのかを、歩引いた位置からじっと観察していた。その背には、かつての徹なエリートとしての威圧はなく、過ちを直しただけがまとうことのできる、い反省と静かな覚悟が漂っていた。彼は希の姿を見つけると、折くをげて敬を示し、希もまた、その変化を受け止めるように穏やかに会釈を返すのだった。
方、その頃の定営第支の窓フロアは、かつてのえ切った面を完全に失い、すっかり様変わりしていた。かつて藤堂や神崎が横暴を振るい、客を骨に差別していたあの空は、今や嘘のようにるく、温かい空気に包まれていた。
本の営業部へと栄転していった沢の任として、この支にしく着任したのは、きびきびとしたのこなしと温かい柄でられる若の女性副支だった。彼女は赴任して々、支の古い悪習を徹底に洗い流し、員ひとりに「客のに寄り添うこと」の性を厳しく、かつ優しく説いて回った。
ロビーの番目つ壁面には、な額縁に入れられた枚のが誇らしげに飾られていた。
そこには、久音次郎の直による力い致で、『への敬を忘れない』という文字が刻まれていた。
広告
おすすめ作品
-
完結第14話
「死産」と告げた院長と20年目の出生記録
20年前、出産した娘を「死産でした」と告げられた私・佐藤しず子。しかし私は、麻酔の中で確かに聞いた産声を一度も忘れられなかった。 真実を確かめるため、私は清英産婦人科医院の清掃員として20年間働き続け、誰にも気づかれず院内の秘密を探ってきた。そんなある夜、若い看護師から「まだ間に合います。あなたの娘さん生きています」と書かれた紙を渡される。 やがて地下の保管庫へ忍び込んだ私は、自分の出産記録の隣に「佐藤女児――転送」と記された手帳を発見する。 さらにそこには複数の新生児と金銭の記録まで残されていた。娘を奪ったのは誰なのか。そして病院は20年間、何を隠してきたのか。見下され続けた“掃除婦”は、集めた証拠を手に院長・安藤剛と対峙する――。真相|修羅場2.1万字5 369 -
完結第19話
深夜2時、隣家の物置で赤ん坊を抱く4歳児
心臓の不整脈で消防士を辞め、故郷の民宿「緑海荘」へ戻った27歳の相馬蒼太。 ある深夜2時、隣家から突然途切れた赤ん坊の泣き声に異変を感じて駆けつけると、物置のような暗い部屋で、全身に青あざを負った4歳のひなが、痩せた妹メイを必死に抱いていた。 「泣いたらまた叩かれるんですか?」――その一言に、蒼太は2人を必ず守ると決意する。民宿へ連れ帰り、常連客の旅行ライター・りんや両親と共に食事と温かな寝床を与え、児童相談所へ連絡。 しかし保護の朝、ひなは「お兄ちゃんと離れたくない」と蒼太の服を握りしめる。初めて見る海の前で、ようやく声を上げて泣いた少女を前に、蒼太とりんは“助ける”だけでは終われない未来を選び始める――。親子関係|修羅場2.8万字5 7 -
完結第10話
洋食屋の絆と、高級寿司屋の逆転
岡田悠斗は、高校生の時に両親を交通事故で亡くし、高卒の自動車整備士として働きながら、三歳下の妹・真央をたった一人で大学の法学部まで育て上げた。真央は猛勉強の末に難関の司法試験を突破し、弁護士として初任給をもらう。悠斗への感謝を込めて予約した高級寿司屋の席で、悠斗の職場の傲慢な上司・西村が偶然居合わせ、「工場で油まみれになって働く底辺の作業員」と悠斗と真央を激しく侮辱する。絶望と怒りが交錯する中、隣の席に座っていた一人の客が立ち上がり、西村を冷徹に一喝する。その男の正体は、かつて両親の営む洋食屋「ひまわり」で無銭の少年時代に助けられた大手IT企業の社長・藤井宗介だった。過去の恩返しと、血を分けた兄妹の絆が奇跡を引き起こす感動のヒューマンドラマ。兄弟姉妹|修羅場1.5万字5 525 -
完結第25話
底辺受付嬢を見下す役員たちの誤算
父の会社は、最も信頼していた人間の裏切りによって無惨に食い物にされた。巨額の負債を背負い、絶望の中で病に倒れた父。私はその冷酷な真相を暴くため、ハーバード大の博士号を隠し、ただの「受付嬢」として敵の中枢である星空グループに潜入した。 誰からも見下され、理不尽な侮辱に耐え忍ぶこと3年。息を潜めて集めた証拠が示したのは、あまりにも残酷な真実だった。父を破産に追い込み、私から全てを奪った黒幕の正体は、父が家族のように慕っていた古参役員だったのだ。 「黒幕は役員会の中にいる」――私を守るため、父が命懸けで残してくれた最期のメッセージを知った時、胸の奥の悲しみは絶対的な冷酷さを持つ復讐の炎へと変わった。私の素性を知る新社長のハルトや、父の旧友たちと共に、私は決して逃れられない完璧な包囲網を密かに築き上げていく。 そして迎えた運命の役員会。全てを掌握したと信じ、私の前で勝ち誇る黒幕。だが彼はまだ知らない。無力な受付嬢だと思っていた私が、彼を社会的死の淵へと突き落とす致命的な罠を仕掛けていたことを。仮面を脱ぎ捨てた時、強欲な悪魔を地獄の底へと引きずり下ろす、容赦なき反撃が幕を開ける――。因果応報|真相|修羅場3.8万字5 863 -
完結第10話
実家のオンボロ工場を笑った次期社長を54階へ案内した
長年勤めた会社で、俺は「会社の金を着服した犯人」に仕立て上げられた。仕掛けたのは、幼い頃から貧しい実家を嘲笑い続け、社長の座に就いた幼馴染・元村だった。データを消され、嘘の噂を広められ、最後には経理の取り巻きまで使った罠で退職へ追い込まれる。祖父母を亡くした俺を拾い、育ててくれた恩人の会社だったからこそ耐えてきたが、犯罪者の濡れ衣まで着せられた瞬間、俺はついに決断した。「辞めます」と。すると元村たちは、俺が“オンボロ工場”へ落ちぶれるのだと大喜びし、見物させろとまで言い出した。俺は静かに笑って彼らを案内する。だが彼らは知らない。あの古びた工場の先に、俺がこれから向かう本当の場所があることを――。そしてエレベーターが54階へ上がった時、元村たちの顔から笑みが完全に消え始める。職場逆転2.0万字5 1409 -
完結第15話
不当解雇された高卒技術者の特許逆転劇
精密機械メーカーの技術者・中村誠は、高卒叩き上げであることを理由に、名門大卒のエリート上司・北川部長から「掃除とオイル交換しかできない無能な雑用係」と見下されていた。ある日、大口顧客向けの製品に二百個超の大量不良が発生。北川は自らの設定ミスを隠蔽し、誠を犯人に仕立て上げて責任を押し付ける。深夜に真相を暴くアクセスログのUSBメモリーを確保した誠だったが、直後に車に撥ねられ全治三ヶ月の重傷を負ってしまう。病室から連絡を入れると、北川は「好都合だ、クビにしておく」と嘲笑し電話を切った。だが誠が病室のベッドから特許庁へ出願した一枚の技術書類と、彼が去って完全沈黙した工場の製造ラインが、欺瞞に満ちた組織に前代未聞の崩壊をもたらす――。職場逆転|人生逆転2.5万字5 370 -
完結第10話
廃業寸前の豆腐屋に来た東大院卒の母親
廃業寸前の豆腐屋を営む俺の前に、4歳の娘を連れた美咲が「ここで働かせてください」と突然現れた。行く場所もなく、公園で夜を越そうとしていた親子を放っておけず、俺は店の2階に住まわせることにする。ところが、ただの訳ありシングルマザーだと思っていた美咲の正体は、東京大学大学院を卒業し、大手食品メーカーで商品開発を担っていた元研究員だった。彼女の知識で売れ残っていた豆腐は息を吹き返し、止まりかけた俺の人生まで少しずつ動き始める。だが、突然現れた元上司が「研究資料」を持ち出した疑いを突きつけ、根も葉もない噂によって取引先まで離れていく。迷惑をかけたくないと姿を消す美咲を前に、俺はもう見て見ぬふりをしないと決めた。彼女の潔白と、この店で一から積み上げたものを証明するため、俺は過去と向き合う――。そして2人の再起は、まだ誰も想像していなかった次の一手へと動き出す。職場逆転|修羅場2.0万字5 298 -
完結第14話
高卒エースを掃除係に落とした無能社長
大手玩具メーカーの営業エース・篠田零司は、高卒叩き上げながら十二年間にわたりトップの成績を維持してきた。だが、恩師である先代の矢吹会長が病で倒れ、新社長に就任した倉島哲也から全社報告会で突如「先月の達成率は三十パーセント、部内最下位のお荷物だ」と虚偽の数字で公開処刑される。強烈な学歴コンプレックスと嫉妬を燃やす倉島は、篠田を社長室の雑用係へと追いやったばかりか、彼が一年かけて心血を注いだ総額百億円の大型独占契約を故意に破談へ追い込む暴挙に出る。しかし、篠田の手元には「確定売上高一億四千二百万円」を証明する売上管理ファイルの原本が存在していた。理不尽の極みの中で静かに退職届を差し出した篠田。だが、現場の異変を察知した車椅子の矢吹会長が立ち上がり、握りつぶされた証拠が暴かれたとき、欺瞞に満ちた社長室に前代未聞の鉄槌が下される――。職場逆転|人生逆転2.9万字5 179 -
完結第10話
従妹に貸した部屋が、半年で40回又貸しされていた
国家試験の勉強に使う――そう約束した従妹・さやが、私のマンションを他人に使わせ、密かに金まで受け取っていた。半年間、家賃も取らず信じて鍵を預けた私を待っていたのは、生活感が消えた不自然に綺麗な部屋だった。光熱費の異常な少なさ、玄関脇に残されたキーボックスの跡、そして靴箱の奥から見つかった、知らない5人宛ての郵便物。調べるほど、さやの「1人で勉強していた」という言葉は崩れていく。さらに彼女は、私の知らない人間に鍵を渡し、住所まで使わせていたことを認め始めた。親族だからと目をつぶることは、もうできない。私は写真、通話記録、利用履歴を残し、警察や関係機関へ相談することを決意する。だが、問題は無断利用だけでは終わらなかった。私の住所は、いったい何のために使われていたのか――。調べた先で、さらに不穏な事実が動き始める。兄弟姉妹|修羅場4.1万字5 314