みかん小説
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"全盲の義母が言い当てた味噌汁の色" 第1話

「美玲さん、今のお噌汁、とっても美しかったわ。もしかしてお噌、変えたのかしら?」

卓の向こう側、湯気がちる漆塗りの椀を細い両で包み込むように持った義母のかず子は、顔をわずかに傾けながら、相好を崩してそう言った。濁りのある瞳はどこか焦点を結ばないまま虚空を向いているはずなのに、その唇には確信に満ちた笑みが浮かんでいる。

キッチンの流し台で洗い物をしていた私のから、器用洗剤の泡にまみれたスポンジが滑り落ちそうになった。キュッと蛇をひねってを止め、ゴム袋をはめた指先を直させる。 背筋に、たい滴がツーと本伝い落ちるような覚がった。

確かに、今の噌汁は変えたのだ。いつも義母のために使っている減塩のわせ噌がほんのしりなくなり、買い置きしてあった信州の噌をブレンドして仕てた。けれど、義母のかず子は、の慮の事故によって完全にを奪われ、両目とも何も見えないはずだった。噌特のい黄みがかった汁のなど、彼女の目には映るはずがない。

「……ええ、よく分かりましたね。今はお噌を切らしてしまって、しだけ噌を混ぜてみたんです」

私は乱れそうになる呼吸を必に押し殺し、普段と変わらない穏やかな嫁の声を装いながら答えた。

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泡だらけの皿を流で流しながら、を澄ます。 たまたま舌の覚が鋭かっただけだろうか。料理が得だっただから、わずかな麹の甘みや塩分の違いに気づいたのだろうか。そう自分に言い聞かせようとしたが、胸の奥底でざわざわと泡つ穏なざわめきは、どうしても収まりそうになかった。

なぜなら、こんな違を覚えたのは、決して今が初めてではなかったからだ。

つい昨もそうだった。焼き網ので皮目をばしく焼きげた刀魚を皿に盛り、義母のに置いた、彼女は箸を伸ばすに、さくを鳴らして眉をひそめたのだ。 『美玲さん、昨のお魚、ちょっとが通りすぎだったわね。皮がし焦げ茶になりすぎて苦かったわ』 また、先週の初めには、炊きてのご飯を茶碗によそって渡した瞬、湯気を吸い込みながらこう呟いた。 『今のご飯、加減がほんのしだけかったんじゃないかしら。粒が潰れて、なんだかベタついて見えるわよ』

見える――その言葉が、私の脳裏に焼き付いてれなかった。 義母はやりだけでなく、焼き魚の焦げ具や、ご飯の炊きがりの艶、汁物のといった、本来ならば覚でしか判断できないはずの「料理の状態」を、まるで目のでしっかりと見届けているかのように確に言い当ててくるのだ。

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おかしい。絶対に何かがおかしい。 けれど、そんな疑が胸ので黒い澱のように渦巻いていても、私は今もまた、提げ袋にたい保温鍋を入れ、夕暮れの宅を歩いて義母のへと夕を届けに向かっていた。

「お母さん、こんばんは。夕を持ってきましたよ」

玄関の鍵をけてがり框にち、居に向かって声をかける。 いつもと同じように、元に完璧な笑みを作りながら、保温鍋の蓋をカチャリとけてみせる。 こたつに入っていた義母は、杖を探るような仕をしながらちがり、私の声のする方へと顔を向けた。そして、探りで伸ばしてきたその皺だらけので私の首をギュッと握りしめると、これまでに何千回と繰り返してきた、蛸ができるほど聞き慣れた台をにしたのだ。

「ああ、美玲さん。いつもすまないわねえ……。本当に、美玲さんがいてくれないと、私は目も見えないし、じゃきていけないわ」

すがるような、れみを誘う声音。その々しいのひらの温もりに触れるたび、私の胸は罪悪と義務で息苦しく締め付けられた。 私は、この言葉に縛られているのだ。 かつて自分の実の母親を、病ので見送ることができなかったという消えない悔。そのの傷を埋めわせるようにして、目が見えない義母の世話に没し、尽くし続ける毎。

それこそが嫁としての美徳であり、私の果たすべき当然の義務なのだと、自分自に呪いをかけるように言い聞かせ続けてきたのだ。

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