"四十九日の追放、母の隠し遺言" 第12話
油を解くと、から現れたのは――冊の預通帳と、つ折りにされた公正証の控えだった。
通帳の表には、母の旧姓ではなく、はっきりと『加納静』の名が印字されていた。 そして、公正証の表題には、達な毛の写しで、こう記されていた。
『公正証遺言』
庭の空気が、完全に凍りついた。 の顔から、瞬で血の気が引いていくのが見えた。 久代の目が、信じられないものを見るように見かれる。
「な……遺言……!?」 の喉から、掠れた鳴のような声が漏れた。
私はちがり、真鍮の指ぬきをよしえ叔母さんの震えるのひらにそっと握らせた。 「叔母さん。これ、お母さんの形見です」
「澄子ちゃん……ありがとう……ありがとうねえ……」 よしえ叔母さんは指ぬきを胸に抱きしめ、粒の涙をこぼした。
そして私は、のの公正証と通帳をしっかりと握りしめ、青ざめる兄夫婦に向き直った。 「兄さん。お姉さん。……所を、座敷に移しましょうか」
実の座敷に、再び苦しい沈黙がりていた。 だが、のあのとは、空気のさがまるで違っていた。 座敷の座には、私が連絡を入れて駆けつけてくれた親族の達也さんと、信子さん、そしてよしえ叔母さんが座っていた。 座には、落ち着かない様子で膝を揺らすと、落ち着きなく線を泳がせる久代。
広告
私は文机のに正座し、母の公正証遺言と預通帳を机の央に広げた。 さらに、信子さんが自宅から軽トラで運んでくれた、あの青い菓子缶を机の脇に置いた。
「兄さん」 私は静かにをいた。 「あなたがから預かっていた、母のキャッシュカードの件です」
は虚勢を張るように胸を逸らせた。 「それがどうした! 俺は男として、母さんの財産を適切に管理していただけだ! 文句を言われる筋いはない!」
「適切に、ですか」 私は通帳のページをめくった。 「これは、母が最初の骨折で入院する直、私に『万がののために』と託してくれていた通帳です。あなたがカードを持ちったも、母のはこの座に振り込まれ続けていました」
私は昨、信代の元同僚に依頼し、法定相続としての正当な権利を使して、過の詳細な取引履歴証を取り寄せていた。 信の窓で働いてきた私にとって、融関の続きなど庭の入れよりも慣れた作業だった。
私はカバンから、A4用数枚に及ぶ取引履歴の束を取りし、座卓のに滑らせた。
「で、母の座に振り込まれたの総額は、千百万円です」 私の声は、淡々と、しかし研ぎ澄まされた刃のように座敷に響いた。
「そして――その千百万円は、が支される偶数のになるたび、ほぼ全額が、あなたの自宅くのATMから引きされていました」
広告
座敷にいる全員の線が、取引履歴の印字に集した。 引きし所の欄には、の自宅最寄りの駅張所の番号が、幾にも連なっていた。
「回につき万円、万円……には限度額いっぱいの万円が引きされています。ですが、母の入院費用や医療費として使われた形跡は、ただの度もありません」
「な……っ!」 の喉がさく鳴った。
「その証拠が、これです」 私は青い菓子缶の蓋をけ、几帳面に輪ゴムで留められた領収の束を、机のに次々と並べていった。
「母のの介護費用、医療費、オムツ代、通院費の領収、総額百万千百円。すべて、私の信の個座から引きした現で支払われています。兄さんが引きした千百万円のから、母のために使われたおは――円たりともしません」
「う、嘘よ!」久代が切り声をげた。「そんなの、あんたが勝に言ってるだけじゃない! 活費よ! お母さんの活費としてさんが使ったのよ!」
「母の活費は、すべてこので、私が私の退職で賄っていました」 私は久代をたく見据えた。 「母はこの、度もあなた方ので暮らしたことはありません。寝たきりの母が、兄さんの自宅くの居酒や、ゴルフや、ブランドショップで活費を使うはずがありませんよね?」
広告
おすすめ作品
-
完結第34話
妻の葬儀の夜、義母が外した指輪と娘の写真
妻・美保の葬儀が終わった夜、修二の結婚指輪を外したのは、亡き妻の母・麗子だった。「もう美保に隠す必要はないでしょう」と唇を寄せたその瞬間、娘・咲から1枚の写真が届く。そこには半年前の病院で抱き合う修二と麗子、そしてガラス越しに2人を見つめる病衣姿の美保が写っていた。 闘病中の妻を支える献身的な夫を演じながら、修二はいつしか自分の弱さを理解してくれる義母へ逃げ込み、越えてはならない境界を越えていた。しかも麗子は「美保も知っていた」「私がいなくなったら修二さんを1人にしないでと頼まれた」と主張し、その証拠となる録音まであるという。 だが翌朝、咲が告げたのは「お母さんの声を最後まで聞いて」という一言。 亡き妻が本当に残した言葉を前に、2人が都合よく信じてきた“許し”が崩れ始める――。夫婦|修羅場5.1万字5 11 -
完結第14話
「死産」と告げた院長と20年目の出生記録
20年前、出産した娘を「死産でした」と告げられた私・佐藤しず子。しかし私は、麻酔の中で確かに聞いた産声を一度も忘れられなかった。 真実を確かめるため、私は清英産婦人科医院の清掃員として20年間働き続け、誰にも気づかれず院内の秘密を探ってきた。そんなある夜、若い看護師から「まだ間に合います。あなたの娘さん生きています」と書かれた紙を渡される。 やがて地下の保管庫へ忍び込んだ私は、自分の出産記録の隣に「佐藤女児――転送」と記された手帳を発見する。 さらにそこには複数の新生児と金銭の記録まで残されていた。娘を奪ったのは誰なのか。そして病院は20年間、何を隠してきたのか。見下され続けた“掃除婦”は、集めた証拠を手に院長・安藤剛と対峙する――。真相|修羅場2.1万字5 403 -
完結第27話
妻を追い出した翌朝、7枚のブラックカードが止まった
結婚3年目の夜、美桜が帰宅すると、夫・達也は若い愛人と義両親を囲み、離婚届を突きつけてきた。「無能で地味な女」「1円も稼げない寄生虫」と嘲られ、慰謝料もなく豪邸から追い出される。 だが4人は知らなかった。美桜の正体は、世界経済を動かす巨大グループの総帥。倒産寸前だった達也の会社を救い、資金も仕事も与え、彼を“天才社長”に見せていたのは全て美桜だった。 さらに豪邸も別荘も、7枚のブラックカードも、達也自身の資産ではなく美桜の法人名義。 離婚届が受理された瞬間、美桜は静かに全カードを停止し、豪邸の退去手続きと会社への特別監査を開始する。 勝ち誇っていた一家がまだ知らない、本当の“無一文”への転落が始まろうとしていた――。修羅場|熟年離婚4.0万字5 234 -
完結第22話
夜勤の救急外来に運ばれた夫と義姉
深夜2時、救急外来で夜勤中の看護師・佐藤み咲のもとへ、交通事故で重傷を負った男女2人が搬送されてきた。シーツの下にいたのは、夫・拓也と義姉・麗子。しかも2人は、決して「姉弟愛」では説明できない姿で倒れていた。 み咲は5年間、看護師という仕事を見下す夫と、「子供も産めない」と侮辱する麗子、その2人を庇い続ける義母・里子に耐えてきた。 それでも彼女は感情を捨て、看護師として2人の命を救うことを選ぶ。 だが、惨状を目にした義母まで「全部あなたのせい」とみ咲を罵倒した瞬間、最後の迷いは消えた。 何年も残してきた暴言の記録と証拠を武器に、奪われ続けた人生を取り戻す反撃が静かに始まる――。夫婦|修羅場|不倫3.3万字5 2272 -
完結第11話
貧乏老人を嘲笑った行員の末路
「あんな貧乏臭い爺い、適当にあしらっとけばいいのに」ボストンバッグを抱えた老人に、新入行員は嘲笑の声を浴びせ、エリート課長代理は別の窓口へ強制的に追い返した。母親の入院費のため百万を引き出しに来ただけの、よれよれのジャケットを着た年寄り――。だが、彼こそが全日本経済の裏を牛耳るクオンホールディングスの会長・久音次郎その人だった。侮辱に耐えかねた新人の篠崎水希が一人で抗議する中、老人が静かに古びたバッグの金具を閉じた瞬間、端末の画面で一千万円、一億円と出金通知の数字が狂ったように跳ね上がり始めた。絶望の淵に立たされた傲慢な行員たちの運命を決定づける、驚愕の審判の行方は――。職場逆転|修羅場1.6万字5 1837 -
完結第19話
深夜2時、隣家の物置で赤ん坊を抱く4歳児
心臓の不整脈で消防士を辞め、故郷の民宿「緑海荘」へ戻った27歳の相馬蒼太。 ある深夜2時、隣家から突然途切れた赤ん坊の泣き声に異変を感じて駆けつけると、物置のような暗い部屋で、全身に青あざを負った4歳のひなが、痩せた妹メイを必死に抱いていた。 「泣いたらまた叩かれるんですか?」――その一言に、蒼太は2人を必ず守ると決意する。民宿へ連れ帰り、常連客の旅行ライター・りんや両親と共に食事と温かな寝床を与え、児童相談所へ連絡。 しかし保護の朝、ひなは「お兄ちゃんと離れたくない」と蒼太の服を握りしめる。初めて見る海の前で、ようやく声を上げて泣いた少女を前に、蒼太とりんは“助ける”だけでは終われない未来を選び始める――。親子関係|修羅場2.8万字5 250 -
完結第10話
洋食屋の絆と、高級寿司屋の逆転
岡田悠斗は、高校生の時に両親を交通事故で亡くし、高卒の自動車整備士として働きながら、三歳下の妹・真央をたった一人で大学の法学部まで育て上げた。真央は猛勉強の末に難関の司法試験を突破し、弁護士として初任給をもらう。悠斗への感謝を込めて予約した高級寿司屋の席で、悠斗の職場の傲慢な上司・西村が偶然居合わせ、「工場で油まみれになって働く底辺の作業員」と悠斗と真央を激しく侮辱する。絶望と怒りが交錯する中、隣の席に座っていた一人の客が立ち上がり、西村を冷徹に一喝する。その男の正体は、かつて両親の営む洋食屋「ひまわり」で無銭の少年時代に助けられた大手IT企業の社長・藤井宗介だった。過去の恩返しと、血を分けた兄妹の絆が奇跡を引き起こす感動のヒューマンドラマ。兄弟姉妹|修羅場1.5万字5 625 -
完結第25話
底辺受付嬢を見下す役員たちの誤算
父の会社は、最も信頼していた人間の裏切りによって無惨に食い物にされた。巨額の負債を背負い、絶望の中で病に倒れた父。私はその冷酷な真相を暴くため、ハーバード大の博士号を隠し、ただの「受付嬢」として敵の中枢である星空グループに潜入した。 誰からも見下され、理不尽な侮辱に耐え忍ぶこと3年。息を潜めて集めた証拠が示したのは、あまりにも残酷な真実だった。父を破産に追い込み、私から全てを奪った黒幕の正体は、父が家族のように慕っていた古参役員だったのだ。 「黒幕は役員会の中にいる」――私を守るため、父が命懸けで残してくれた最期のメッセージを知った時、胸の奥の悲しみは絶対的な冷酷さを持つ復讐の炎へと変わった。私の素性を知る新社長のハルトや、父の旧友たちと共に、私は決して逃れられない完璧な包囲網を密かに築き上げていく。 そして迎えた運命の役員会。全てを掌握したと信じ、私の前で勝ち誇る黒幕。だが彼はまだ知らない。無力な受付嬢だと思っていた私が、彼を社会的死の淵へと突き落とす致命的な罠を仕掛けていたことを。仮面を脱ぎ捨てた時、強欲な悪魔を地獄の底へと引きずり下ろす、容赦なき反撃が幕を開ける――。因果応報|真相|修羅場3.8万字5 1784 -
完結第10話
廃業寸前の豆腐屋に来た東大院卒の母親
廃業寸前の豆腐屋を営む俺の前に、4歳の娘を連れた美咲が「ここで働かせてください」と突然現れた。行く場所もなく、公園で夜を越そうとしていた親子を放っておけず、俺は店の2階に住まわせることにする。ところが、ただの訳ありシングルマザーだと思っていた美咲の正体は、東京大学大学院を卒業し、大手食品メーカーで商品開発を担っていた元研究員だった。彼女の知識で売れ残っていた豆腐は息を吹き返し、止まりかけた俺の人生まで少しずつ動き始める。だが、突然現れた元上司が「研究資料」を持ち出した疑いを突きつけ、根も葉もない噂によって取引先まで離れていく。迷惑をかけたくないと姿を消す美咲を前に、俺はもう見て見ぬふりをしないと決めた。彼女の潔白と、この店で一から積み上げたものを証明するため、俺は過去と向き合う――。そして2人の再起は、まだ誰も想像していなかった次の一手へと動き出す。職場逆転|修羅場2.0万字5 322