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"百五十七名の命、ある農婦の通信" 第12話

度およそ百メートル、百フィートという、平の訓練では考えられない極めて異例の空。 の巨な戦闘は、寸分の狂いもない見事なダイヤモンド隊形を維持したまま、気を引き裂く音のジェットエンジンの轟音で勝のを満たした。

納からびしてきた真理は、旅客が防林のわずか数メートルの位置で止した、まさにその麦畑の真んにち、空を見げた。 を通過する瞬、のF-15は完璧に同調し、主翼をへ、そしてへとリズミカルに傾けて見せた。 パイロットが空で交わす、最峰の敬礼――「ウイングロック」。

その直、編隊の翼をんでいた番が隊形を静かに脱した。 アフターバーナーに点され、双発のノズルから鮮烈なオレンジの柱が吹き荒れる。 轟音とともに、そのだけが、つない真っ青な空へ向けて、垂直に突き抜けるような猛烈な急昇を始した。

「ミッシングマン・フォーメーション」。 本来は、戦で散っていった戦友の魂を悼むために空けられる欠落の隊形。 だが今、この空で描かれたそれは、者への追悼では決してなかった。 過酷な運命から百名の命を救いし、へと帰還させた、かつての名きトップガンに対する、現役の戦闘乗りたちからの最級の謝と敬の証だった。

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真理は麦畑の央に直したまま、両の頬を伝い落ちるい涙を拭おうともしなかった。 着陸の直も、彼女は泣かなかった。 乗客たちが次々と駆け寄り、涙ながらに謝の言葉をにしたも、彼女は笑顔を崩さなかった。 すべての危がるまで、彼女は自らのの堤防を決して決壊させなかったのだ。 だが今、かつての空の同胞たちが描いたその軌跡を見た瞬、彼女のの奥底に張り巡らされていた防壁が、音をてて崩れっていた。

作業着のポケットので、私用のスマートフォンが震えた。 通話ボタンを押すと、受話器の向こうから、聞き覚えのある懐かしい男の声が響いた。 以も連絡を取っていなかった、かつて度の「レッドフラッグ」演習で彼女の僚(ウィングマン)を務めた、現・第201隊の2佐だった。

『……アイアンハンド。あなたがやったこと、自隊の全員がっていますよ。……いや、本のがっている』

の声は、受話器の向こうでわずかに震えていた。

『俺たちはただ、あなたに伝えたかったんです。……俺たちは、隊のことをたりとも忘れたことはありません。ずっと、あなたの背を誇りにってんできたんです。……あなたは今でも、俺たちの永のリーダーですよ』

真理は溢れる涙を堪え、しばらくの、言葉を返すことができなかった。

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喉の奥の震えを必に抑え込み、ようやく絞りすようにしてをいた。

「……バカね、君。私はもう、ただの農のおばさんよ」

『作業着を着た、“アイアンハンド”でしょう?』

が、無線越しに懐かしく笑った。

『俺たちに言わせれば、そんなものにした違いはありませんよ』

着陸事故からヶが過ぎた、の初旬。 真理は軽トラックのハンドルを握り、帯広内の学へと向かっていた。 学で理科を教える伊藤という若い教諭から、通の丁寧なが届いたのがきっかけだった。学のクラスで、ぜひ徒たちに向けて命や仕事についての講話をしてほしいという依頼だった。 最初は自分のようながる幕ではないと断るつもりだったが、の追伸に「あの事故でき残った藤崎健太君が、あなたの言葉を胸に、毎を向きに過ごしています」とかれているのを読み、彼女は引き受ける決をしたのだった。

教の扉をけると、の徒たちが背筋を伸ばして待っていた。 最列の央には、あのと同じように真っ直ぐな瞳をした健太が座っていた。 真理は教壇のにち、ドラマチックな脚を交えることもなく、いつもの飾らない、静かな言葉で語り始めた。

空を見げた瞬、エンジンの止まった体を見て事態を悟ったこと。

誰かの専が助けてくれるのを祈るのではなく、自らので無線をちげる決断をしたこと。

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