みかん小説
本棚

"百五十七名の命、ある農婦の通信" 第13話

「になってから、周囲のたちに聞かれました」

真理は、徒たちひとりの顔を見つめながら語りかけた。

「なぜ、自分からそんな恐ろしい事態に関わろうとしたのか、と。私には静かな活があり、広な畑があった。放っておいて、警察や専の管制官に任せておくことだってできたはずじゃないか、とね」

教のは、を打ったように静まり返っていた。

「でもね、本当のことを言えば――あの瞬、その現にいたプロフェッショナルは、ならぬ私自だったんです。たまたまだらけの作業着を着て、靴を履いていただけだった。……あなたがので学び、につけてきた識や技術は、あなたが今どんなを着ているかなんて気にしません。もし、目ので誰かを救うことができる力を持っているのに、責任を恐れてそれを使わないを選んだとしたら……はその卑怯な決断の荷を、背負ってきていくことになるんです」

最列の女子徒が、おずおずとを挙げた。

「……怖くは、なかったんですか?」

「もの凄く怖かったですよ」

真理は即座に、微笑みながら答えた。

「最初から最まで、ずっと臓が張り裂けそうなくらい怖かった」

「じゃあ……どうして、そんなに静でいられたんですか?」

真理はしだけ線を井に向け、かつて自らが学んだの古い恵を反芻した。

広告

「本では昔から、“平常”という言葉があります。それはね、恐怖をまったくじないことではないんです。怖いとうことと、静でいることは、真逆のことではありません。恐怖は、今そこにある危を正確に教えてくれる警報です。そして静さは、その危に対してどうち向かうべきかを教えてくれる舵なんです。は、その両方をのに同に持つことができる。本当に切な面にった、はむしろ、その両方をしっかりと握りしめていなければならないんです」

教のろの席に座っていた、物静かな男子徒がを挙げた。

「……が止まった、どんな気持ちでしたか?」

真理はの目を真っ直ぐに見つめ、ゆっくりと言葉を紡いだ。

「の厳しい訓練の、その秒秒のすべてが、あの瞬のためにあったんだ……と、からいました。今まで自分が歩んできた、流してきた汗や涙は、何つとして無駄じゃなかったんだと。辛かったことも、そのはがないとえた挫折ですらも、すべてが繋がっていたんだと気づかされました」

真理は教の全員を見渡した。

「皆さんがこれから学ぶことのに、無駄になることなんてつもありません。ただ、それをいつ、誰のために使うことになるのか、今はまだらないだけなんです」

広告

授業が終わると、健太が駆け寄ってきた。 は誇らしげに微笑み、真理に々とお辞儀をした。その背は、ヶよりもしだけきく見えた。

事故からの。 京のホテルにおいて、本航空主催による「JAL2749便還周記式典」が催された。 田をはじめとする運航乗務員、客乗務員、そして百名の乗客全員に招待状が送られ、全国各から百名もの々が集まった。

会の央に現れた真理は、普段の作業着ではなく、落ち着いた紺のスーツをにまとっていた。 彼女の姿を認めた瞬、会から割れんばかりの拍が沸き起こった。

医師は、枚の写真を真理に見せてくれた。 「にわたり透析を続けていた、私の診療所の患者さんです。先、無事に腎臓移植術を終えて退院しました。……私がきて島へ帰ることができたから、このの命を救うことができました」 彼女はそう言って、くをげた。

茂と富子は、娘夫婦とともに、歩き始めたばかりの歳になる孫のを連れてきていた。 茂は真理のを両で包み込み、言葉にならないいを込めて固く握りしめた。富子はを抱きげながら、目元を細めて微笑んだ。 「この子、きくなったらパイロットになりたいって言うかもしれません。

あなたのように、真っ直ぐを見つめるい目をして笑うんですよ」

健太は母親に連れられてやってきた。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: