"産後七日目の決別" 第7話
逃げを塞がれた男
庭裁判所での調から数の曜。
のたいが吹き抜ける、直はで真帆の実へとやってきた。
玄関をけた直の姿には、かつての尊で偉そうな態度は欠片も残っていなかった。背は丸まり、目は充血し、取りは鉛のようにい。
真帆は両親に頼んで奥の部へがってもらい、客の襖を閉めた。
部のには、真帆と直、そして座布団ので嫌よくをバタつかせているつむぎのだけだった。
真帆は向かいって座ると、元に用していた茶封筒から、あの事部のメール履歴のコピーを取りして机のに置いた。
「直さん。今は弁護士の先も調委員さんもいません。あなたのから、本当のことを聞かせて」
直は机のの類を瞥し、ビクッと肩を震わせた。
「……調で言った通りだよ。あの期、係への昇試験がかったんだ。もし育休なんか取って週も抜けたら、司や役員からの評価ががるかもしれないって……怖かったんだ」
ようやく吐きされた、男の勝な本音だった。
真帆は鳴ることも、取り乱すこともなく、ただ静かに頷いた。
「そうったんだね」
「……ああ」
「それなら、どうしてそう言ってくれなかったの?」
直が驚いたように顔をげた。責めてられるとばかりっていた妻から返ってきたのは、あまりにも静かで、透き通った問いかけだった。
広告
「昇試験が事なら、そう話してくれればよかったじゃない。あなたのキャリアは、これからの族の活にも関わることよ。で話しっていれば、平は私が実に頼って、週末だけあなたがサポートするとか、民のシッターさんを配するとか、いくらでもやり方はあった。どうして『会社が取らせてくれない』なんて嘘をついて、私を騙したの?」
直は顔を歪め、ボロボロと畳のに線を落とした。
「言ったら……おに『仕事より子供を優先して』って責められるとったんだよ……! 休んでくれって言われるのが嫌だったんだ!」
「だから、最初から選択肢がなかったことにしたのね」
真帆の声は、の刃のように鋭かった。
「会社が悪い、制度が悪いと嘘をついて自分を被害者の所に置き、私には『諦めるしかない』とい込ませた。そして、帝王切の激痛に耐えながらおきに泣く娘を抱く私を見て見ぬふりをして、自分だけ全な所に逃げ込んだのよ」
「あ、あのは……本当に余裕がなかったんだ……!」
「余裕がなかったのは私よ!」
真帆の凛とした声が、静かな部に響いた。
「私はお腹を切られて、血を流して、体が砕けそうなで娘の命を抱えていたの! あなたはそれを見ていたはずよ。見ていながら、自分の評価を守るために、私と娘を見捨てたのよ」
広告
直は両でを抱え、畳に額を擦り付けるようにして崩れ落ちた。
「ごめん……悪かった……俺が悪かった……!」
それは、産ケア施設であの暴言を吐いて以来、直が初めてにした謝罪だった。
しかし、真帆のには、何の波紋も起きなかった。あまりにも遅すぎ、あまりにも自分本位な謝罪だったからだ。
「謝罪はいりません。……直さん、これからのことだけど」
真帆は静に告げた。
「私はあなたと夫婦に戻るつもりはありません。でも、つむぎの父親である権利まで奪うつもりはないわ。来週の曜、域の育児支援センターで乳幼児教があります。そこへ来てください。から、娘と向きってもらいます」
直は涙で濡れた顔をげ、すがるように頷いた。
「く……くよ! 絶対にく!」
男はまだ気づいていなかった。
自分がこれから向きわなければならない現実が、これまでのでわったどんな仕事よりも過酷で、そして自らの傲さを根底から叩き折る試練になるということに。
広告
おすすめ作品
-
完結第26話
特上寿司と、消えた妻の半年
3月31日22時、激務を終えて帰宅した私の席にあったのは、冷え切った白米一杯だけだった。目の前で1万8900円の特上寿司を頬張る夫と義母は、「反省したらおかずをあげる」と大笑いする。家計の大半を私が支えているにもかかわらず、9ヶ月間も「罰」として食事を奪われ、夫は横で嘲笑っていた。だが二人は知らない。私が半年かけて集めた出前明細の履歴と、義母が隠し持っていた一枚の申告書の存在を。「じゃあ、外で食べてきます」――二度と振り返らずにドアを閉めた夜、経理の私が仕掛けた冷徹な清算が幕を開ける。嫁姑|夫婦4.0万字5 524 -
完結第34話
妻の葬儀の夜、義母が外した指輪と娘の写真
妻・美保の葬儀が終わった夜、修二の結婚指輪を外したのは、亡き妻の母・麗子だった。「もう美保に隠す必要はないでしょう」と唇を寄せたその瞬間、娘・咲から1枚の写真が届く。そこには半年前の病院で抱き合う修二と麗子、そしてガラス越しに2人を見つめる病衣姿の美保が写っていた。 闘病中の妻を支える献身的な夫を演じながら、修二はいつしか自分の弱さを理解してくれる義母へ逃げ込み、越えてはならない境界を越えていた。しかも麗子は「美保も知っていた」「私がいなくなったら修二さんを1人にしないでと頼まれた」と主張し、その証拠となる録音まであるという。 だが翌朝、咲が告げたのは「お母さんの声を最後まで聞いて」という一言。 亡き妻が本当に残した言葉を前に、2人が都合よく信じてきた“許し”が崩れ始める――。夫婦|修羅場5.1万字5 632 -
完結第18話
夫が遺した土地と、隣家の3台の車
夫・正夫を亡くしてまだ3か月。65歳の照子に、隣人・真由美は「もう使う人はいないでしょう」と夫の物置を片づけ、20年間無償で借りてきた土地へ3台分のカーポートを建てたいと言い出す。 しかも「20年使えば、もううちのものみたいなもの」と返還まで拒もうとした。 しかし夫の書類箱から見つかったのは、村上家自身が「無償でお借りします」と署名した20年前の便箋。さらに正夫の手帳には「村上さんに空き地の話」「畑の土」「玉ねぎの苗」と、秋に土地を返してもらう計画が残されていた。 やがて照子の知らないところで、物置撤去を前提に業者まで呼ばれていたことが発覚する。 亡き夫の親切を“当然の権利”に変えようとする隣人に、照子は残された記録を手に、20年続いた曖昧な関係へ初めて線を引く――。日常ホラー|修羅場2.0万字5 0 -
完結第18話
余命半年と嘘をつき、愛人と隠し子を選んだ夫
「俺はあと半年しか生きられない」――夫・健一から突然、肺がんによる余命宣告を告げられた恵子。しかしその夜、1人で人生を考えたいと言って出かけた夫は、隣町のスナックで若い女性・みほと会っていた。 幼馴染・香織が録音した会話から、健一が既婚者であることを隠してみほと関係を持ち、存在しない「軽井沢の豪邸」で一緒に暮らそうとしていることまで判明する。さらに健一は、妊娠中のみほとの子を「隠し子」と認め、「遺産は愛人と子供に渡すから、お前は我慢しろ」と恵子へ言い放つ。 だが恵子は夫の病気そのものを疑い始める。やがて健一が“証拠”として見せた診断書に、決定的な綻びが見つかる――。怒り|不倫2.7万字5 2119 -
完結第16話
四十九日の追放、母の隠し遺言
「十年世話しただけの妹に、実家の取り分はないわ」 母の四十九日、喪服の兄夫婦は親族の前で澄子を指差し、台所の冷えた板の間へ追いやった。信金を辞め10年間、720万円の私財を投じて母を看取った澄子に、兄は「今週中に出て行け」と冷酷に通告する。 母のキャッシュカードは7年前から兄が独占し、消えた年金は1240万円。 家財すべてが二束三文で業者に売り払われようとする中、母が50年愛用した古い足踏みミシンの奥底から、厳重に隠された「ある物」が滑り落ちた。 「その言葉、そっくりそのままお返しします」 あの日からちょうど49日後、審判の幕が上がる――。兄弟姉妹|修羅場2.3万字5 468 -
完結第27話
妻を追い出した翌朝、7枚のブラックカードが止まった
結婚3年目の夜、美桜が帰宅すると、夫・達也は若い愛人と義両親を囲み、離婚届を突きつけてきた。「無能で地味な女」「1円も稼げない寄生虫」と嘲られ、慰謝料もなく豪邸から追い出される。 だが4人は知らなかった。美桜の正体は、世界経済を動かす巨大グループの総帥。倒産寸前だった達也の会社を救い、資金も仕事も与え、彼を“天才社長”に見せていたのは全て美桜だった。 さらに豪邸も別荘も、7枚のブラックカードも、達也自身の資産ではなく美桜の法人名義。 離婚届が受理された瞬間、美桜は静かに全カードを停止し、豪邸の退去手続きと会社への特別監査を開始する。 勝ち誇っていた一家がまだ知らない、本当の“無一文”への転落が始まろうとしていた――。修羅場|熟年離婚4.0万字5 319 -
完結第22話
夜勤の救急外来に運ばれた夫と義姉
深夜2時、救急外来で夜勤中の看護師・佐藤み咲のもとへ、交通事故で重傷を負った男女2人が搬送されてきた。シーツの下にいたのは、夫・拓也と義姉・麗子。しかも2人は、決して「姉弟愛」では説明できない姿で倒れていた。 み咲は5年間、看護師という仕事を見下す夫と、「子供も産めない」と侮辱する麗子、その2人を庇い続ける義母・里子に耐えてきた。 それでも彼女は感情を捨て、看護師として2人の命を救うことを選ぶ。 だが、惨状を目にした義母まで「全部あなたのせい」とみ咲を罵倒した瞬間、最後の迷いは消えた。 何年も残してきた暴言の記録と証拠を武器に、奪われ続けた人生を取り戻す反撃が静かに始まる――。夫婦|修羅場|不倫3.3万字5 3801