みかん小説
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"赤ペンで消した夫" 第9話

「今夜帰るよ」の着信

目の午。 の夕暮れはく、はすでに鈍のに覆われていた。 子は、リビングの片隅に然と積みげられたつの段ボール箱を見つめていた。 に入っているのは、也が用していたブランド物のスーツ、級ネクタイ、ゴルフバッグ、そして彼がコレクションしていた稀覯本や文学全集のすべてだった。 すでに自宅の鍵のシリンダーは、鍵のによって最型の子ロックへと交換済みだった。 也が持っている古い属鍵では、もはやこのの敷居を跨ぐことすら叶わない。

ピピピッ。 ダイニングテーブルのに置かれた子のスマートフォンが、けたたましく鳴した。 画面に表示された発信者名は――『也』。

子はゆっくりと呼吸をえ、回コールが鳴るのを待ってから、通話ボタンをスワイプした。 「もしもし、也さん」

受話器の向こうから聞こえてきたのは、満ちりた、だがどこか疲労の混じった、勝者のような男の声だった。 『ああ、子かい? やっと終わったよ!』 也の声は、興奮で微かに震えていた。 背からは、幹線の内アナウンスのメロディが微かに漏れ聞こえている。 京きのあさま号のデッキにいるのだろう。

『の缶詰宿、本当に変だったよ。希ちゃんが途でい邪をこじらせてをしてしまってね。

病しながら原稿を仕げるのに、本当に骨が折れた。……だが、彼女はもうすっかり元気だ。もがって、傑作を抱えて京へ向かっている。僕も今、幹線に乗ったところだよ』

病。 会社のを湯のように使い、と豪遊を繰り返していた男が、最まで妻に対して吐きしたっぺらな嘘。 『今夜にはに着くよ。ぶりのがだ。……子、温かい呂と、君のいつもの粕汁を用して待っていてくれないか。今夜帰るよ』

子は、唇の端をわずかに持ちげ、静かに告げた。

「もう、帰らなくていいわよ」

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