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"赤ペンで消した夫" 第14話

義母の襲来と、徹な返答

曜の夕暮れ。広尾のマンションのに、台の個タクシーが急した。 りてきたのは、也の母親――黒沢郁恵(いくえ・歳)だった。 着流しのコートの裾を乱し、血相を変えてエントランスのオートロックを激しく連打してくる。 子はインターホンの受話器を取り、静かに応答した。

「子さん!! けなさい! どういうことなの、これは!!」 スピーカー越しに、郁恵のヒステリックな絶叫が響き渡る。 子は解錠ボタンを押し、玄関のドアをけて待った。 エレベーターを駆けがってきた郁恵は、子の姿を見るなり、鬼のような形相で掴みかからんばかりに詰め寄ってきた。

「也から話があったわ! 会社をクビになりそうだ、全部おの仕業だって! あんた、正気なの!? 自分の夫を警察に突きすような真似をして、恥ずかしくないの!?」

「警察汰にはしていません。社内の倫理規定に従い、公正な告発をっただけです」 子は歩も退かず、淡々と答えた。

「屁理屈を言うんじゃないわよ! 男のがでしくらい羽を伸ばすのが何だっていうの! 若い女のや、に転がしてきな仕事をさせるのが、の男の甲斐性でしょうが! それを妻の分際で尾して、会社に密告して……あんたは也のを、黒沢の名誉をに塗る気なの!?」

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郁恵のからびすのは、代で勝極まりない毒親の論理だった。 息子を盲し、甘やかし、正すらも「男の甲斐性」として肯定してきたこの母親こそが、也という怪物を育てげた温だったのだ。

子は無言のまま、リビングのローテーブルに置いてあった冊のクリアファイルをに取り、郁恵の胸元へと突きつけた。

「……何よ、これ」

「ご覧になってください。お義母さんが誇りにっていらっしゃる、ご自の息子の『甲斐性』の全容です」 子の声は、静かだが鋼のようにかった。 「会社の経費からに注ぎ込んだ百万円以の横領伝票。に自らの過作を代させ、賞を棒しようとしたかぬ記録。そして――との密会現を押さえた調査報告の写真です」

郁恵は震えるでファイルをめくった。 ベッドで乱れる息子の醜悪な姿、ホテルの領収、そして会社のを横領して平然としている々しい通信記録。 枚めくるごとに、郁恵の顔から血の気が引いていく。

「お義母さん。先の夕で、私におっしゃいましたね。『の先には良いことがある』『夫をから支えるのが妻の美徳だ』と」 子は歩、郁恵へと歩み寄った。 「あなたのその歪んだ美徳と盲信が、也さんをここまで腐らせたのです。罪を犯した息子を庇いてするに、彼が会社と社会に対して負うべき責任を直してください。

……それから、私はもう、あなたの息子の妻ではありません」

子は玄関のに、也の署名が入った婚届の写しを置いた。 「お引き取りください。度と私のに現れないで」

ドアが静かに、だがく閉ざされた。 の廊から、郁恵の崩れ落ちるようなすすり泣きと、息子の名を呼ぶけない叫び声が聞こえていたが、子は度も振り返ることはなかった。

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