みかん小説
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"無一文の清掃員に届いた出前丼(" 第1話

「院ごっこは、今で終わりだ」

受話器の向こうから響いてきたその声は、く、湿り気を帯びた笑いに震えていた。 元に押し当てた黒い受話器のプラスチックが、え切った皮膚をじりじりと麻痺させていく。俺は誰もいない暗い受付カウンターのに、のポケットに両を突っ込んだままち尽くしていた。 壁に掛けられた丸い計のい針が、カチリと音をてて午分を指し示した。 いつもなら、この帯の受付の内側には、青の制を着たの事務員が並んで腰掛けているはずだった。来受付の始に向けて釣銭の銭を数える属音がなり、話の保留音がせわしなく鳴り響き、待の井くに吊られた液晶テレビからは朝の報番組のるい声が流れている。廊の奥のナースステーションからは、夜勤から勤へと引き継ぐ護師たちの張りのある申し送りの声が漏れ聞こえ、建物のどこかでリノリウムのを滑る業務用の掃除のモーター音がく唸っていた。

その音が、何ひとつとしてしなかった。

待の角にあるテレビ画面は、を吸い込んだように真っ黒なまま沈黙している。井の蛍灯は引きされたように消え果て、窓から差し込む朝のが、埃の漂う静まり返ったフロアをく切り取っているだけだった。

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入れのき届いた古い製の子のには、昨の夕方に誰かが置き忘れていった週刊誌が冊、無造作にかれたまま放置されている。 俺は受話器を握り直すと、ゆっくりと受付の内側を覗き込んだ。 台並んだ受付用パソコンのディスプレイはすべて源が落ち、のような暗がりを晒していた。事務机のには、々の業務の順や各種の連絡先が几帳面な字でかれた引き継ぎ類が、まるで墓標のように然と積みねられている。付箋のつもなく、き置きのメモや伝言の類いも切残されていない。ただ、たいコピー用の束が、寸分の狂いもなくねられているだけだった。

俺は無言のまま受話器を持ったをろし、い取りで廊の奥にある更へと向かった。 引き戸をけ放たれた職員用のロッカーには、の気配が完全に消え失せていた。鉄製のロッカーの扉はどれもあけすけにけ放たれ、は空っぽだった。名札も、予備のナースサンダルも、肌寒いに羽織っていたカーディガンも、何ひとつ残されていない。昨まで確かにそこにしていた以のたちの痕跡が、たった晩ののに溶けるようにして、綺麗さっぱり消滅していた。

俺は再び受話器をに押し当て、がらんとした更の気のにち尽くした。

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こちらの沈黙を愉そうに受け止めながら、話の向こうの男――副院だった黒川裕は、平然とした調子で言葉を継いだ。 「言っておくが、俺は何も悪いことはしていないぞ。制したわけでも、脅したわけでもない。みんなが自分ので決めたんだ。『あんたのでは働けない』と、それぞれが自分ので考えて判断した結果だ」 その声はどこまでも落ち着き払い、むしろ胸に溜め込んできた鬱屈をらしたかのようにれやかですらあった。 俺は乾ききった唇をき、何かを言い返そうとした。だが、喉の奥が砂漠のように乾き果て、舌が顎に張り付いて、ただ掠れた呼気が漏れるだけだった。

線をへ向けると、窓のには残酷なほど透き通った青空が広がっていた。 砂利が敷き詰められた病院の駐には、俺が朝番に乗ってきた軽自が台だけ、ぽつんと寂しそうに止まっている。 針がく。もうすぐ午になる。 になれば、いつも通りに所の患者たちがやってくる。の痛む老や、同じ血圧の薬をんでいる馴染みの々が、この町で最も古い病院の玄関を、何つ疑うことなく押しけて入ってきてしまう。

俺の父は、この病院をにわたって守り抜いた。 その父がに急し、歳の俺が院の座に就いた。

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