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"無一文の清掃員に届いた出前丼(" 第5話

その技の速さと正確さは隣の病院でも名で、緊急の術が入っても眉ひとつかさず、瞬に確な執刀計画を組みてて現を統率した。父の次にこの病院で尊敬されている医師を挙げろと言われれば、職員の誰もが迷わず黒川の名をにしたはずだし、俺自も彼の科医としての技術にはい敬を抱いていた。 だが、黒川は俺のことを、同僚の医師としてすら認めていなかった。

「永瀬先。そんなきの説用、患者はへ持って帰ったらゴミ箱に捨てるだけだぞ」 あるの夕方、病棟の廊ですれ違いざま、黒川は俺がにしたファイルをたい目で見ろしながら吐き捨てた。 「そんな図面を夜な夜な描いている暇があるなら、つでもくの術の症例報告を読め。あんたがやっているのは『丁寧な医療』なんかじゃない。ただ自分の診断に自信が持てず、責任を取るのが怖くて決断を先送りにしているだけだ」 その言葉は胸にく突き刺さったが、同に、言の反論もできないほど正鵠を射ていた。 俺は、決断できない医者だった。迷い、悩み、過のデータを調べ直し、それでもが消えずにち止まる。 黒川はその正反対だった。瞬に決断をし、その決断を自らの技術で正解へと導く。医者としてどちらが組織を牽引するのに相応しいかと問われれば、俺だって黒川先だと答えただろう。

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そんな、針の筵のような院内の関係ので、ただだけ、誰に同調することもなく、俺に対して最初から最まで態度を変えない職員がいた。 病棟護師の相澤美穂だった。 相澤さんは歳。この病院に来て目になる堅の護師だった。 化粧の気のない清潔な顔ちに、ろでひとつに束ねた黒髪。派な装飾品を切につけず、職員同士の派閥争いやみ会にも滅に顔をさない。休憩で誰かの噂話や悪にが咲いているも、彼女は隅の席で静かに護記録を読み返しているようなだった。 彼女の仕事ぶりは、どこまでも物静かで、そして寸分の狂いもなく正確だった。 俺が病棟で指示をすと、相澤さんは必ず元のメモ帳を指差し、俺の目をまっすぐに見つめてから、く澄んだ声でその指示を正確に復唱した。

度だけ、俺が疲労のあまり、点滴の輸液量を誤って指示箋に記入してしまったことがあった。 通常の倍の速度で投与すれば、全の兆候がある齢の患者の肺にが溜まりかねない危険な指示だった。 相澤さんは、その指示をそのまま械に実することはしなかった。 ナースステーションの奥で類を理していた俺の元へ音もなく歩み寄り、周囲に聞こえないような細やかな配慮を込めた声で、俺の袖をそっと引いたのだ。

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「永瀬先、お疲れのところ申し訳ありません。この処方箋のカリウムの混注量と輸液速度ですが……この患者さんの現の能の数値から見て、本当にこちらの指示のままでよろしいでしょうか」 彼女が指差した数値を見た瞬、俺の全の血の気が気に引いた。背筋をたい汗が流れ落ちる。 「……すまない、相澤さん。俺の完全な見落としだ。指示をき直す。本当に……気づいてくれてありがとう」 俺が々とをげると、相澤さんはただ静かに首を横に振っただけで、余計な追及も説教も切にしなかった。 普通の護師であれば、若い跡取り息子の致命な医療ミス未遂として、すぐに休憩の格好のゴシップの種にしただろう。だが、相澤さんは誰にもその話を漏らさなかった。なくとも、その件がの職員のから俺のに入ってくることは度としてなかった。

当の俺は、相澤さんのことを「無で真面目な、優秀な護師さんの」としか認識していなかった。 今にしてえば、あの頃の俺は自分のことで杯になりすぎていたのだ。偉な父のに追いつけない惨めな自分と、それを取り巻くややかな周囲の線。そのつの圧に押し潰されそうになりながら、静かに、誠実に自らの持ちを守り続けているのの瞳の奥に何が映っているのかなど、像する余裕すら持てていなかった。

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