みかん小説
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"無一文の清掃員に届いた出前丼(" 第6話

そして、俺が見落としていたものは、彼女のだけではなかった。 父の異変についても、俺はまったく気づけていなかったのだ。 今から、父は周囲の反対を押し切るようにして、病院の規模を段階に縮し始めていた。 それまであった入院ベッドを、まずへと削減した。そしてその翌には、さらにへと減らした。 「夜勤に入れる護師のなりが減っているからだ」 父は職員会議の席でそう淡々と説していた。 そして今からヶ、最の入院患者が無事に退院していったのを見届けた、父は病棟の稼働そのものを完全に休止させた。 休止、というのは、政への届けは病を維持したまま、実質な受け入れをに止めるという措置だ。廃止ではないため、員さえ揃えばいつでも再できる建にはなっていたが、いつまでも空の病棟を放置しておけるほど病院経営は甘くない。 保健所や政への分い申請類は、すべて父がで斎に籠もって作成していた。 俺は反対しなかった。というよりも、反対できるではなかったのだ。父はこの医療法の絶対な理事であり院で、俺はそので雇われている勤務医に過ぎなかったからだ。 だが、夜の静まり返った階にがり、誰の息遣いもしない暗い病のドアが延々と並んでいる景を目にするたび、俺の胸は締め付けられるような寂しさに苛まれた。

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父ももう歳なのだ、体力の限界をじて、自分のでしずつ幕を引こうとしているのだろう――俺はその程度の浅い理解で、父のを眺めていた。

病棟を休止した直のあるの夕方、院で古いカルテの理をしていた父が、ふと顔をげて俺に尋ねてきたことがあった。 「裕介。おは、この病院をこの先どうしたいとっているんだ」 唐突な問いかけに、俺は言葉を詰まらせた。 どうしたい、と言われても答えようがなかった。ここは父が命を削って守ってきたであり、父がきている限り、父の病院なのだ。俺ごときが青写真を語るなど、烏滸がましいとすらっていた。 「……父さんが決めてくれたら、俺はそれに従うよ。今まで通り、できる限りの診察を続けるだけだ」 父はしばらくの、の読めない乾いた瞳で俺の顔をじっと見つめていた。 そして、いつものようにく息を吐きすと、 「そうか」 とだけ言って、再び元の類へと線を落とした。 あの、父の胸のにどのような覚悟と苦悩が渦巻いていたのか。その真実の全貌を俺がることになるのは、父がたいのに眠り、さらにヶ以の歳が流れたのことだった。

父のは、あまりにも唐突に訪れた。 季節の変わり目の、穏やかな曜の朝のことだった。 の曜まで、父は何事もなかったかのように来診療をこなしていた。

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曜の夕暮れ、暗い廊ですれ違った際、父が俺に向けて言った、 「来週の曜は郡の医師会の役員会がある。午の来を頼むぞ」 という言葉が、俺たちが交わした最の会話となった。

曜の朝、を過ぎても階の父の部から物音が聞こえてこなかった。 父は無休で毎朝には起し、神棚のを替え、庭の植にをやるのがの課だった。その父が起きてこないという、ただそれだけの事実で、俺の臓は鐘のように打ち鳴らされた。 恐る恐る襖をけ、暗い部の布団のに横たわる父の肩を揺すった。 「父さん、朝だよ」 返事はなかった。 触れたパジャマの奥の肉体は、すでにの朝の空気よりもたくなっていた。 そこから先の記憶は、まるでの悪を見ているかのように断片で、現実を失っていた。 救急を呼ぶために震える指でスマートフォンの画面をタップしたこと。救急隊員が到着するまでの数分、直の始まった父の胸元に両をね、必で臓マッサージを繰り返したこと。のひらを通じて伝わってくる肋骨の軋みと、決してね返ってこない絶対な沈黙。 因は、急性筋梗塞だった。 当直医の診断によれば、おそらく未の眠に発作が起き、苦しむもなく息を引き取ったのだろうとのことだった。

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