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"無一文の清掃員に届いた出前丼(" 第8話

その法な承継続きは、拍子抜けするほど迅速に完した。 告別式の翌、顧問税理士と親族の理事が数名集まってかれた臨の社員総会および理事会において、俺が任の理事および院として選任された。 異議を唱える者は誰いなかった。父が、万がの事態に備えて、法の定款変更や理事の推薦、さらには継者に関する表示の公正証に至るまで、すべての法な類を完璧にえていたからだ。類に記された番しい付は、今から半、父が病削減をめていた期のものだった。

その類の束を、俺のに音もなく並べたのは、事務の井克己だった。 井さんは歳。父が院に就任した直からにわたり、この病院の財務と事務のすべてを裏方として取り仕切ってきた番だった。柄な体に縁の鏡をかけ、常に物腰柔らかく丁寧な言葉遣いを崩さない男だ。 「院先は、こうした事務な続きに関しても、から極めて几帳面に備えをなさる方でしたので」 「……父は、何か俺への言葉を残していましたか」 俺が縋るように尋ねると、井さんは線をわずかに斜めへと落とし、 「いえ。私はただ、指示された通りに法な類をえただけでございます」 と、事務に答えた。

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俺はその、井さんが見せた瞬の躊躇のに気づくことができなかった。 ただ、差しされた役員名簿の写しの束のに、きの職員名簿が紛れ込んでいるのが目に入った。職員ひとりの名の横に、父の独特の丸っこい跡で、さなボールペンの印がついているものと、ついていないものがあった。 俺は何かの事務なチェックの跡だろうとい、特に気にも留めずに類の束を閉じた。

席をとうとした、井さんがふとを止め、鏡の奥の瞳で俺を静かに見つめた。 「裕介先。つだけ、老婆ながら申しげてよろしいでしょうか」 「はい、何でしょうか」 「……これから、先のの回りに様々な来事が起こるかとじます。ですが、何が起きようとも、どうか慌てて決断をなさらないでください。院先は、どんな嵐のでも、まずち止まって全体を見据えておられましたから」 その言葉の真を、当の俺は測りかねていた。 「何が起こるというのですか」と問い返すべきだったのだ。だが、親を失った直の過労と混乱で麻痺していた俺の脳は、そのな警告をただの通り遍の慰めとして聞き流してしまった。

こうして俺は、歳という若さで、永瀬病院の代目院、ならびに医療法の理事となった。

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医師になって目。この病院に戻ってきて目のだった。 病院を継ぐという実質な覚悟など、何ひとつ固まっていなかった。ただ、父の遺ので、に代わりのがいないからという消法な理由で、そのすぎる板を背負わされたに過ぎなかった。

全職員を集めての院就任の挨拶は、告別式を終えたの午、階の暗い会議でわれた。 医師、護師、医療技術職、事務員など、ほどの職員がパイプ子に腰掛けていた。 俺はあらかじめ言葉を用していなかった。原稿用など用すれば、また父の葬儀ののように、借り物の言葉に喉が詰まってしまうことが分かっていたからだ。 その結果として、俺がにしたのは、およそ組織のリーダーとはえないほど無様でけない挨拶だった。

「……父の代わりのような名医には、俺は到底なれません。そんなことは、自分が番よく分かっています」 静まり返った会議で、俺の声だけが虚しく響いた。 誰も顔をげようとはしなかった。 「ですが……この病院を、父が命を削って守ってきたこの所を、俺の代でなくしてしまうつもりはありません。どうか……これまで通り、至らない俺を助けてください。よろしくお願いします」 俺はマイクを置き、々とをげた。

拍は、起きなかった。

沈黙の底から、誰かが付きいのようにさく「はい」と呟いた声が、ポツリと聞こえただけだった。 ゆっくりと顔をげた瞬、俺は会議を満たしている異様な空気に気づくべきだった。

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