みかん小説
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"無一文の清掃員に届いた出前丼(" 第12話

自分たちの毎の料は払われるのか、族の活はどうなるのか、この病院に未来はあるのか――その底れぬ恐怖に耐えかねて、蜘蛛の子を散らすように逃げしただけなのだ。 黒川の誘いに乗った彼女たちを、俺が責めることなど誰ができようか。 悪いのは、誰の目から見ても「このについていけば丈夫だ」というを片たりとも与えられなかった、俺自の無能さなのだから。

医局へ戻ろうと廊を歩く途、処置の入りのハンガーに、着のが掛けられたままになっているのが目に入った。 父がくなるまで着ていただった。誰も片付けないまま、そこに残されていたのだ。 胸ポケットには使い古した本のボールペンが差したままになっており、襟元や袖はの洗濯で擦り切れ、く黄ばんでいた。 俺はそのに触れることができなかった。指先ひとつ触れただけで、元から崩れ落ちて度とちがれなくなるような気がしたからだ。

俺は処置のたいリノリウムのに、膝から崩れ落ちるようにしゃがみ込んだ。 を抱え、自分の膝を見つめた。 やるべきことは、痛いほど分かっていた。 今の診療を直ちに止する。玄関の自ドアに「都により無期限休診」のを貼り、代表話を留守番設定に切り替える。

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そので保健所と郡の医師会へ連絡を入れ、事を説してをげる。隣の消防署の救急指令センターにも話をかけ、「永瀬病院はこれ以、切の救急患者の受け入れが能となりました」と伝えなければならない。

診察に座り、聴診器を当て、血圧を測り、採血の注射針を刺すことなら、医者である俺でもこなせるだろう。 だが、医療とは医者で完結するものでは断じてない。 受付で患者の保険証を確認し、患カルテを作るがいない。 処方箋を発しても、調剤して薬を渡す薬剤師がいない。 レントゲンのスイッチを押す技師もいなければ、血液検査の械を回す検査技師もいない。 患者が吐いた汚物を拭き取り、使用した器具を洗浄してオートクレーブで圧滅菌するがいない。 待から「〇〇さん、どうぞ」と次の患者を呼び入れるすら、この広な階建ての建物のにもいないのだ。 診察の扉から先も、も、何ひとつとして繋がらない。 きりの医者など、荒野に打ち捨てられた壊れた聴診器と同じだった。

にをつき、額をたい板に押し当てたまま、俺は目を閉じた。 父の皺だらけの厳格な顔が、まぶたの裏に浮かんできた。 父ならどうしただろうか、とは考えなかった。 父がきていれば、こんな悪のような事態はそもそも起こり得なかったのだ。

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それだけは、疑いようのない事実だった。 俺が守りたかったのは、祖父と父が以かけてこの町に築きげてきた、命を救うための温かな砦だったはずだ。 その砦を、俺はを継いだ初に、たった発の砲撃で完膚なきまでに崩壊させてしまったのだ。

「……終わりだ」 乾いた声が、誰もいない処置に虚しく響いた。 ちがり、ふらつく取りで玄関ホールへと戻った。受付の脇のカウンターに、今朝剥がしたばかりの「臨休診」の貼りが、セロハンテープの端を丸めたまま置かれていた。 俺はそれを再び自ドアに貼り直すため、鉛のようにいを伸ばした。

そのだった。

廊の奥、暗い病棟へと続く通の向こうから、規則正しい靴音が響いてきたのだ。 キュッ、キュッと、清潔なゴム底がを捉える、静かな、だが迷いのない音。 俺は息を呑み、縛りに遭ったようにそのにち尽くした。 音はゆっくりとづいてくる。 朝のが差し込むナースステーションの、暗いの向こうから現れたのは、真っなユニフォームにを包んだの女性だった。

相澤美穂だった。

髪はいつも通り、部で筋の乱れもなくきっちりと結ばれ、胸元にはプラスチックの名札が留められていた。その名札の端には、の、児科の来に来ていた腕な男の子が「お姉ちゃんにあげる」

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