みかん小説
本棚

"無一文の清掃員に届いた出前丼(" 第15話

相澤さんは静かに首を横に振った。 「私、夜勤の巡回で見ました。先は滝沢さんのベッドの脇のパイプ子に腰掛けて、点滴の針を刺すでもなく、検査をするでもなく……ただ、あのおじいさんが落ち着いて寝息をてるまで、もも、何も言わずにただ静かに横に座っておられました。……滝沢さん、退院されるの朝、ナースステーションの私にこう仰ったんですよ。『夜になると井が真っ暗で怖くてたまらなかったが、若先が横に座っててくれたから、して眠れたんだ』って」

俺はその記憶を繰り寄せ、胸が詰まった。 確かに、そんな夜があった。だが、それは治療という呼べるような層な医療為ではない。ただ、怯える老の横に座ることしかできなかった、俺の無力さの表れだとっていたのだ。

窓から差し込む朝の陽が、い廊のを黄に染めげていた。 誰もいない静寂ので、相澤さんの声だけが、俺の魂の奥底を優しく震わせていた。

「才じゃなくてもいいといます。カリスマになれなくてもいいといます。……私は、どんなでも患者さんの横から逃げさない先を、信じたいんです」 相澤さんは両で顔を覆い、あふれる涙を堪えるように肩を揺らした。 そして、濡れた瞳で俺をまっすぐに見据え、々とをげた。

広告

「先……どうか、私を使ってください」

俺はそのから、歩もくことができなかった。 のので、これほどまでに真っ直ぐに、自分のきてきた軌跡を全肯定されたことなど、ただの度もなかった。 声がなかった。顔をげれば、堰を切ったように涙が溢れしてしまうことが分かっていたからだ。 自分の努力など、誰の目にも留まらない、暗のの無駄なあがきに過ぎないとい込んでいた。父にすら度も褒められたことがないのだから、誰からも認められないのが当然だと、頑なにを閉ざしていたのだ。

だが――見ていてくれたがいた。 この病院ので、誰よりも静かに、誰よりも誠実に患者に寄り添い続けていたこの女性が、俺の臭い掻きのすべてを、その澄んだ瞳に焼き付けていてくれたのだ。

界が激しく歪み、俺は唇を噛み締めてを見つめ続けた。 相澤さんは何も言わず、俺がをえるのをじっと待ってくれていた。 やがて、俺はきく呼吸をし、涙をの甲で乱暴に拭って顔をげた。

「……相澤さん」 「はい」 「料が、いつまで払えるか分かりませんよ。……来には座が底をつくかもしれない」 「はい、覚悟しています」 「、患者さんがも来ないかもしれない。……けない院で、本当にすみません」 「けなくなんてありません」

広告

相澤さんは髪を入れずに即答した。その元には、微かな、だが力い微笑みが浮かんでいた。

俺は受付のカウンターへと歩み寄った。 元には、先ほどまでドアに貼り直そうとしていた「無期限休診」のがある。 壁の計の針は、午分を指していた。 「……相澤さん。今、この病院をけられるといますか?」 相澤さんはしだけ考えを巡らせるように線を宙に泳がせ、それから、いつも医師の指示を復唱すると同じ、引き締まったプロの顔つきで頷いた。

「できる範囲のことだけなら、けられます」 彼女は指を折りながら、テキパキと現状を理し始めた。 「入院病棟はヶから休止していますから、入院患者はいません。掛かりな術は能ですし、救急の受け入れもお断りしなければなりません。……ですが、いつものお薬を取りに来られる定期受診の患者さん、血圧の測定や健康相談に来られるご齢の方、そして次医療関への紹介状が必な患者さんだけなら、先と私のだけでも分に対応できます。……今、な顔でここへやってくる患者さんたちに、『永瀬病院はなくなってしまったんだ』とだけはわせたくありません」

胸の奥の澱みが、気に洗い流されていくような覚がした。 俺は肺の底からく息を吸い込み、腹に力を込めて言った。

「……よし、けましょう!」 にしてしまった瞬、臓が肋骨を突き破らんばかりにねがった。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: