みかん小説
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"無一文の清掃員に届いた出前丼(" 第19話

俺は顔をげた。 「はい。できる限りのことだけですが、診療しています」 「だったら、診てくれ。わしは薬をもらいに来たんだ」

診察に入ると、相澤さんが際よく源蔵さんの腕のシャツをまくりげ、血圧計のカフを巻きつけた。 シュッシュッとゴム球を握る音が響く。 「が百、がですね。源蔵さん、先よりしだけいですよ」 「そうかい。まあ、朝から所の噂話を聞かされて、し血圧ががっちまったのかもしれんな」 源蔵さんは苦笑いした。 俺は血圧帳に数値を記入し、「お薬はこれまで通りの内容で続けましょう。塩分だけは気をつけてくださいね」と伝えた。それから、両膝の調子について尋ねた。 源蔵さんは、の寒さよりも、先の湿気と気温差の方が古傷に響くのだという話を、振り振りを交えて分ほど語ってくれた。 俺はその話を、相槌を打ちながら言も遮らずに聞き続けた。 聞きながら、俺は胸の奥で父のことをいしていた。父は、こんなに患者ののない活の話にを傾けるを、、毎毎飽くことなく繰り返してきたのだ。

会計の、源蔵さんは銭入れから貨を取りし、カウンターのトレイに置いた。 相澤さんが元の卓を叩いて額を伝えた。百円玉枚でお釣りがくるような、ささやかな額だった。

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源蔵さんは領収を財布に仕い、へと向かいかけたが、ふとを止めて振り返った。 その顔には、いつもの偏屈な職の表は消え失せ、い皺の奥の瞳が、真っ直ぐに俺を射抜いていた。

「……若先。逃げないでいてくれて、ありがとな」 俺の喉が、ぐっと詰まった。 「わしはな、あんたの親父さんに、骨の髄まで世話になったんだ。の半の体の調は、全部この病院で診てもらった。……だからよ、ここが板をろしちまったら、わしはからどこへきゃいいのか分からんかったんだ」 源蔵さんは待の窓の、くの並みを見つめた。 「隣の町にできたしい病院は、そりゃあ派な建物らしいな。うちの息子もな、『あんなボロい病院に通ってないで、しいデカい病院へけ』ってうるさく言うんだよ。……でもよ、あんなピカピカした所へったって、わしのことなんて誰もらんだろうが」 老の声が、を帯びてく響いた。 「わしの膝が先に番痛むことも、うちの婆さんが糖尿病を患ってることも、うちが根の瓦を吹き替えたばかりで元にがないことも……あのきな病院の偉いお医者様たちは、誰らんのだよ。……自分のをってくれているがいる所ってのはな、そう簡単に別の所へ乗り換えられるもんじゃねえんだ」

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俺はただ、両を太ももの横に揃え、「はい……はい」とをげ続けることしかできなかった。 源蔵さんは自ドアのまで歩みをめ、センサーに反応してゆっくりとドアがいたところで、もう度だけ振り返った。 「若先。わし、もまた来るわ」 「えっ……? ですが源蔵さん、は診察の予定はありませんよ。血圧のお薬も、今ヶ分おししましたし」 「予定なんざ、なくても来るんだよ!」 源蔵さんは眉をつりげ、悪戯っぽく笑った。 「この待に誰も座っていなかったら、を通った奴らが『ああ、やっぱり永瀬病院は潰れたんだ』とって素通りしちまうだろうが! わしがここに座って聞でも読んでりゃ、やってることがから丸見えだ! じゃあな!」

源蔵さんは背を丸め、杖をつきながらっていった。 自ドアが閉まり、再び訪れた静寂ので、俺は受付カウンターの方を振り返った。 相澤さんがを向いたまま、の差し指で目をく押さえていた。俺と線がうと、彼女は慌てて「すみません」と呟き、何事もなかったかのようにちがってカルテをファイルへと戻した。 その、永瀬病院を訪れた患者は、佐々源蔵さん、ただだった。

夜になり、病院全体がいに包まれても、階の事務の蛍灯だけは煌々と灯り続けていた。

「相澤さん、もう夜のを回りました。あなたは帰ってください」

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