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"無一文の清掃員に届いた出前丼(" 第32話

学の。母が癌で急した直、父はきりでに残される俺を配したのか、休みの、毎のように俺を病院へと連れてっていたのだ。 診察の隅の丸子に座らされ、父から「ここに座って、聞こえたことを何でもいいからノートにき留めておけ」と命じられた。 当の俺には、その為の医療ななど何ひとつ分からなかった。ただ、母を失って誰もいないガランとしたにで留守番をしているよりは、父の背が見える診察の隅にいる方が、孤独を紛らわせることができたのだ。 俺はあの、朝から夕方まで診察の隅に座り、父と患者が交わす言葉をノートにき写し続けた。腰の痛いの話、血圧のい農の老婆の愚痴、眠れない母親の涙――追いつかない鉛をらせながら、俺は子供に、「医者とは、の痛みにを傾け、その言葉をき留める仕事なのだ」と、皮膚覚で刷り込まれていたのだ。俺が医学部を目指した原点は、紛れもなくあのにあった。

「私、ずっと覚えていたんです」 相澤さんの瞳から、粒の涙がポロポロと零れ落ちた。 「お母さんを絶望から救ってくださった院先の隣で、緒に必にメモを取っていたあの男の子の姿を……。あのは、体誰だったんだろうって、になって護学を卒業してからも、ずっとに残っていたんです。

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……そしてにこの病院に就職して、しばらく経ってから気づいたんです。あの子は、裕介先だったんだって」 俺は言葉を失い、喉がく締め付けられた。

「だから……私はこの病院に命を救ってもらった族なんです。今度は私が、先と緒に、この切な所を守りたいんです」 その夜、仕事を終えて帰宅するので、俺はハンドルに額を押し当て、暗い内で声を殺して泣いた。 俺のらないところで、父の蒔いた種がの歳を超えて芽吹き、巡り巡って、絶望の淵にたされていた俺の元へと帰ってきてくれていたのだ。

その頃から、隣町の隣メディカルガーデンに関する協音の噂が、さらに具体性を帯びて聞こえてくるようになった。 ある、当院で民健診を受けた所の老の付き添いとして、かつて当院を退職していった元護師のが待に姿を現したことがあった。 彼女は廊の向こうに俺の姿を認めるなり、弾かれたようにく、くをげた。俺もまた、静かにをげ返した。言葉は交わさなかった。だが、その張った表だけで、向こうの過酷な現状が痛いほど伝わってきた。

から相澤さんが仕入れてきた報によれば、最鋭のメディカルガーデンの病棟は、すでに現崩壊寸の修羅と化しているらしかった。

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病数がすぎる方で、集められたスタッフの母体がバラバラでチームワークが能せず、患者あたりに割けるは極端に切り詰められていた。認症の齢者が同じ訴えを繰り返せば、「業務がまないから」とナースコールを取りげられ、体拘束されるケースが常茶飯事になっているという。 科部に就任した黒川先は、経営陣から術件数のノルマを課され、毎のようにオペに籠もりきりで、来は経験の浅い若い研修医たちに丸投げされている状態だった。

そして――何よりも俺の胸をざわつかせたのは、事務だった井さんの方だった。 井さんは、黒川先たちと共に隣メディカルガーデンへ移籍したはずだった。だが、あそこの事務組織の名簿に、井克己の名はどこにもしなかったのだ。 あの朝、通の退職届を机のに揃え、「慌てて決めないでください」と俺に言い残したきり姿を消した井さんは、体どこへってしまったのか。その疑問が、喉に刺さった魚の骨のように、ずっと俺のに引っかかり続けていた。

その秘密の扉がいたのは、まったくの偶然からだった。

父の院の片付けがほぼ終わり、古びたな製デスクを壁の隙からしに引きしたのことだ。

ガタッと、引きしの奥で片がれる鈍い音がした。

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