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"無一文の清掃員に届いた出前丼(" 第37話

午の診療を終え、静まり返った待の自ドアがき、傘を畳む音が響いた。 入ってきたのは、仕ての良い私を着た、し痩せ細った柄な老だった。 井さんだった。

井さんは濡れた傘を傘てに差し込み、受付のを通り過ぎて、診察の入りにつ俺の正面へと歩み寄ってきた。 そして、々と、直角に腰を折ってをげた。 「……若先。変申し訳ありませんでした」

俺は何も言わず、診察の丸子を引いて座るよう促した。だが、井さんは首を横に振り、ったまま言葉を継いだ。 「私は……院先がくなられたあの、通の退職届を庫に隠し持ち、先に何ひとつご相談申しげませんでした。……あのの私は、目先の財務諸表と数字の帳尻わせしか見えていなかったのです。『院を失ったこの病院は破綻する。職員たちがに迷うに、全員でしい病院へ移籍することこそが、事務としての私の最の責任だ』と……黒川先の理な言葉の方を、正しいと信じ込んでしまったのです。、この病院の飯をわせていただいておきながら……私は、番切なものを見失っておりました」 井さんの鏡の奥の瞳から、粒の涙が零れ落ちた。

「先……私は、隣メディカルガーデンにはっておりません。

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あの朝から今までのヶ、ずっと自宅に引きこもっておりました」 「……そうだったのですか」 「けなかったのです。預かった通の退職届のに……自分の退職届だけを、どうしても混ぜることができませんでした」 井さんは着の内ポケットから、切にしまい込まれていたらしい、シワの寄った通の茶封筒を取りした。そこには、震える文字で『退職届 井克己』とかれていた。 「これを……どう処分してよいかも分からず、ヶ、毎仏壇にをわせながらち尽くしておりました」

俺はその封筒を受け取らなかった。 じっと井さんの濡れた瞳を見つめ、静かにをいた。 「井さん。戻ってきていただけますか」 井さんがハッと息を呑み、顔をげた。 「ただし、条件があります」 「……はい。何なりとお申し付けください」 「これから先、患者さんを置きりにしない仕事をしてください。数字は切です。資繰り表を睨み、病院を潰さないように数字を厳しく管理するのは、井さんの絶対な職責です。……ですが、数字の帳尻をわせるために、誰かの命や活を切り捨てなければならない局面が訪れたは、必ず、番に俺に相談してください。俺はそこで、臭く迷いますから。俺は判断の遅い、の悪いですから、できるだけめに言いに来てください」

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井さんはしばらくの、言葉を失って震えていた。 やがて、彼は差ししていた退職届の封筒をゆっくりと内ポケットへと仕い込み、に額がつきそうなほどくをげた。 「……かしこまりました、院先。命に代えましても」

その週、代の若い護師の戸さんも病院へと戻ってきた。 あの朝、俺からの話をわず着信拒否してしまった、あの護師だった。 面接の席で、戸さんは声をげて泣きじゃくりながら言った。 「先……あの、話にられなくて本当にごめんなさい! 私、自分がけなくて……!」 俺は穏やかに首を横に振った。 「っていますよ。ワンコールで切れたから、迷ったんだろうなとっていました。……戻ってきてくれてありがとう。でも戸さん、俺に謝る必はありません。待の患者さんたちに、『あの朝はいなくなってごめんなさい』と、笑顔で言だけ伝えてから仕事を始めてください」 翌から、戸さんは待の老たちひとりに々とをげて回った。老たちは誰として彼女を責めず、「戻ってきてくれてよかったよ」と、そのさなを温かく握り返していた。

そして、蝉の声がに痛い真の夕暮れ。 来を閉めたの静寂のに、台の黒いセダンが駐に滑り込んできた。 りてきたのは、私姿の黒川裕だった。

を着ていない黒川は、以よりも髪が目ち、目のの隈がく刻まれて酷くやつれて見えた。

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