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"無一文の清掃員に届いた出前丼(" 第38話

待の央で、俺たちは向かいってった。 子を勧めたが、黒川は断った。彼は腕を組み、古びた待の井、きの貼り、そして壁に残る画鋲の穴を、じっと見回していた。 「……患者も職員も、しずつ戻っているそうだな」 「ええ、おかげさまで」 「うちから引き抜いてるわけじゃないだろうな」 「滅相もありません。戻りたいと言ってをげてくれたたちを、条件をつけて受け入れているだけです」 黒川はフッと自嘲気に息を漏らし、俺の目をまっすぐに見据えた。 「なあ、永瀬先。……おなんかに、体何ができるんだ?」 その問いかけには、あの朝のような傲な余裕は完全に消えっていた。声はかすれ、どこか救いを求めるような響きすら混じっていた。

俺はしの、自分の胸の内に問いかけ、それから静かに答えた。 「俺では、何もできません」 黒川の眉がピクリといた。 「本当に、何ひとつできないんです。診断は遅いし、術もできない。経営の数字も分からない。……あの朝、もし相澤さんが残ってくれなかったら、俺はこの病院を確実に閉めて逃げしていました。だから俺は、残ってくれたと、戻ってきてくれたを、命懸けで切にするだけです。それ以に、俺にできることなんてありませんよ」

黒川は何も言わなかった。ただ、固く結ばれた唇が微かに震えていた。

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俺は歩踏みし、言葉を続けた。 「黒川先。……父の遺品のから、ノートが見つかりました」 黒川の表が、初めて劇な揺を見せた。 「……院が?」 「先のことが、かれていました。『黒川君は腕のつ素らしい科医だ。この病院で尽くしてくれたことに、から謝している』といてありました」 「嘘をつくな!」 黒川がく唸るように叫んだ。 「嘘ではありません。お見せしましょうか? ……そして、こうもいてありました。『黒川君の志向する度な医療は、この過疎の病院ではもう叶えてやれない。彼はしい病院へくべきだ。私は絶対に引き留めない』と」

待の空気が、シンと静まり返った。 壁の古計の振り子の音だけが、コチ、コチと規則正しくを刻んでいた。 「……あのは」 黒川の喉から、掠れた声が絞りされた。 「あのは……俺がていくことを、っていたのか?」 「ええ。半から、すべてごでした」

黒川はを半きにしたまま、い、虚空を見つめてち尽くしていた。 やがて、その柄な肩が微かに丸まり、線がゆっくりとへと落ちていった。 「……そうか」 絞りされた言葉は、それだけだった。 俺には、そのい呟きのに込められたのすべてを推し量ることはできなかった。 だが、確信できたことがつだけあった。 このは、誰よりも父に認められたかったのだ。

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、父の腕として現を支え続け、「次は自分の番だ」と信じていた誇りき科医が、その座を未熟な息子に譲られたことへの悔しさの底にあったのは、名誉欲などではなく、敬する師からの継者として抱きしめられたかったという、純粋な渇望だったのだ。

黒川はそれ以何も語らず、を翻して自ドアへと歩みった。 ドアをくぐり抜ける直、彼はち止まり、振り返ることなく背で言った。 「……永瀬先」 「はい」 「うちに患者を紹介してくるは、紹介状をもっとくまとめろ。枚も枚もダラダラかれたら、読む方のが持たん」 「……はい、善処します」 「……それと」 黒川は夕暮れの空を見げた。 「あの図は見事だったぞ。ペースメーカーを入れた婆さんだ。……うちの若い連なら、違いなく見落として止させていた。あの診断だけは、院譲りだな」 そう言い残すと、黒川は度も振り返ることなくに乗り込み、エンジンを轟かせてっていった。 俺は玄関の内側にち、テールランプの赤いが夜のに消えていくのをじっと見つめていた。 勝ったなどという傲なは微もなかった。 あのにはあのにしか救えない命があり、俺には俺にしか守れない活がある。同じ町の医療という巨なパズルを埋める、異なる形のピースなのだと、俺はく納得していた。

病棟の正式な廃止届を保健所に提したのは、父の百箇を過ぎたの初めだった。

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