みかん小説
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"無一文の清掃員に届いた出前丼(" 第40話

そのの夜、来を終えて翌の往診の荷物をまとめている相澤さんに、俺はふと声をかけた。 「相澤さん」 「はい、先」 「……あの、あなたが残ってくれなかったら、俺はこの病院を確実に閉めていました。本当に、休診のをドアに貼る寸だったんです」 相澤さんはを止め、穏やかな差しをこちらに向けた。 「先。私が残ったのは、先が『残る』だったからですよ」 「……残る?」 「はい。あの、私は朝の半から、病院の裏のにを止めて、通用が見える所でずっと待っていたんです。……もし先が来なかったら、私もそのまま鍵を置いてちるつもりでした。でも、先は来られました。誰もいない真っ暗な病院の鍵をけて、に入り、ロッカーの空っぽの棚を見てち尽くし……黒川副院からあんな酷い話をかけられても、それでも逃げさずに、もう度待へ戻ってこられました。……逃げるはね、玄関の鍵をけるに帰るものなんですよ」 相澤さんは悪戯っぽく微笑んだ。 「先。才じゃなくていいんです。……絶対に逃げさないお医者様が、この町にはどうしても必だったんですよ」

俺は目を押さえ、井を仰いだ。 涙が溢れて止まらなかった。 その夜、俺は文具でしい黒い学ノートを冊買い求め、院の父の冊のノートの隣に並べて置いた。

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冊目のノート。 父が冊をき終えるまでに、がかかった。俺の領の悪さなら、きっと半分のページを埋めるのすらもっといがかかるだろう。 だが、それでいいとった。 最初のページに、俺は万でこう記した。 『子さん(歳)。腰の衰えがしている。玄関のがり框の段差がく、転倒のリスクがい。次回往診、靴を脱がずにベッドまでがれる線を族と相談すること』 きながら、俺はでさく笑ってしまった。 父と、まったく同じことをしている。 の歳を回りして、俺は今、ようやく父と同じ平にち、同じ景を見つめているのだ。

あれから、のが流れた。

「永瀬医院」は、今も変わらず柏町の緩やかな坂のに建っている。 建物の壁タイルはさらにし褪せ、自ドアは相変わらずワンテンポ遅れてギシギシとく。製の子も、腰掛けるたびに懐かしいきしみ声をげる。 だが、スタッフは俺を含めて名に増えていた。 俺のに非常勤の医師が名、訪問護と来を兼任する護師が名、医療事務が名。 父が全盛期に抱えていた名の規模にはく及ばない。だが、現の柏町の医療需にとって、この名という顔の見えるチームこそが、もっとも完璧で固な陣容だった。

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井さんが引き直した緻密な資繰り計画のおかげで、この、職員の料の支払いがたりとも遅れたことはない。

来診療は毎朝賑わい、週にの午は往診で町の々を駆け回る。 夜に緊急コールの話が鳴れば、俺はかつての父と同じように、枕元のを引っ掴んで夜ののへとをらせる。 こので、俺たちは名の患者を、み慣れた自宅の畳ので、族のに見守られながら穏やかに取った。

そののが、佐々源蔵さんだった。 くなる週まで、源蔵さんは杖をついて来へやってきていた。 特に診察の予約がないでもふらりと現れ、待の子の端に腰掛けて朝刊を広げ、俺が顔をすと「気にせんでいい、座っとるだけだ」と敵に笑っていた。 あの朝から、最の瞬まで、彼は俺たちの「最初の患者」であり続けてくれた。

最期のの朝、往診に駆けつけた、源蔵さんはすでに識を失い、静かに顎呼吸を繰り返していた。傍らでは、妻のみつさんがその節くれだったを両で固く握りしめていた。 俺はベッドの脇に正座し、元で「源蔵さん、裕介です」と呼びかけた。 返事はなかった。だが、その眉が、微かにピクリといたような気がした。 俺はみつさんに「……おそらく、あとほどだといます」

と告げ、族が集まるまでの、台所の片隅の子を借りて、ただ静かにそこに座り続けた。

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