みかん小説
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"夫の遺品から出た三十年目の嘘" 第14話

子供のように肩を震わせ、嗚咽を漏らしながら、涙が枯れ果てるまで泣き続けた。

疑っていた自分が、恥ずかしかった。 けれど、それ以に――これほどまでにく、これほどまでに気く、自分を切にい、守ろうとしてくれていた夫ののさに、魂が震えていた。 健は、静子にの言葉を囁くことはなかった。 けれど、健のの設計図の真んには、常に「静子の老」があり、「静子の優しい」を守るための防波堤が築かれていたのだ。 自分の欲をすべて削ぎ落とし、友への義理を全うしながら、妻の活と尊厳を何つ傷つけまいと、で歯をいしばってき抜いた男。

帳の最のページには、病に倒れる直、震えるでかれたとわれるい殴りきがあった。

『令吉。 ネックレス購入完。裏蓋の奥に保管。 、必ず届けること。 もし俺のがかなければ――』

そこで文字は途切れていた。 「もし俺のがかなければ」のに続く言葉はかれていなかった。 だが、健はきっと、最期の瞬まで、この約束をどうやって果たすべきか案じていたに違いなかった。 病で識がれゆく、静子のをぎゅっと握り締め、何かを言いたそうに唇をかしていた夫の姿がいされた。 あの、言えなかった言葉。 妻を信じ、妻にすべてを委ねるしかなかった、器用な男の最期の祈り。

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「届いたわよ、健さん……」

静子は涙を拭い、帳を丁寧に閉じて仏壇のに置いた。 そして、遺のの健に向かって、両をわせ、まっすぐにその瞳を見つめた。

「ちゃんと、届いたわ。あなたが守り抜いた約束も、真司さんのいも、そしてあなたの誇りも……すべて、あの子の胸に届いたわよ」

線の煙が、ふわりと輪を描くように揺れた。 仏壇のに供えられたいお茶からちる湯気が、健の遺のガラスに微かに触れ、まるで遺の夫が静かに頷いたかのように見えた。

部のには、もう何の物音もしなかった。 古計がチク、タクとを刻む音だけが、穏やかに部を満たしている。 その音は、もはやの徹さを告げるものではなかった。 健が遺してくれた気いと記憶を抱きしめながら、静子がこれから歩んでいく、しい々の始まりを告げる音のように聞こえていた。

静子はちがり、台所へ戻って、さなお皿に夕の残りの煮物をしだけ取り分けた。 ご飯をよそい、噌汁を温め直す。 自分の分と、健の分。 お盆に載せて再び畳へ戻り、机のに並べた。 健の席のにご飯と噌汁を置き、自分もその向かい側に座る。

「さあ、夕飯にしましょう。今はしえるから、噌汁をめにしておいたわよ」

静子はをわせ、「いただきます」

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と呟いた。 箸を取り、に運ぶ。 、毎作り続けてきた、素朴な庭料理の。 健が文句も言わず、黙々と平らげてくれた、あのだ。 涙がまたしだけ瞳に滲んだが、今度はこぼれ落ちることはなかった。喉を通る温かいべ物が、静子の臓腑に染み渡り、きる力を呼び覚ましていく。

事を終え、器を片付け、静子は再び畳へと戻ってきた。 仏壇の線は燃え尽き、炉のにいの筋を残していた。 静子は仏壇の扉を静かに閉めようとして、もう度だけ、遺の健の顔を見つめた。

「あなた……から、私、庭の入れを始めるわね。あなたが植えた植たち、し枝が伸びてきちゃったから。それから、麻美さんがね、もし迷惑でなければ、々お線をあげに来てもいいですかって言ってくれたのよ。今度あの子が来たら、あなたの好きだったあの渋いお茶と、美しいお菓子を用して迎えてあげましょうね」

遺のの健は、相変わらず無な顔をしていた。 けれど、その頑固そうな眉の奥に、確かな謝のが宿っているのを、静子は見逃さなかった。

「おやすみなさい、健さん」

パタン、と静かに仏壇の扉を閉める。 部のかりを消すと、障子越しに青いが差し込んできた。 静子は廊へて、玄関の鍵がしっかりとかかっていることを確かめた。

それから寝へと向かい、自分の布団に入った。

掛け布団を引きげると、隣に敷かれたままの、今はもう誰も眠ることのない夫の布団が目に入った。 けれど、そこにはもう、凍えるような寒々しさはなかった。 の歳ので、あの男が注ぎ続けてくれた無言の、だがよりもいが、この全体を、そして静子ののすべてを、毛布のように温かく包み込んでいた。

暗ので、静子は目を閉じた。 そのにはもう、片の迷いも、片の寂しさも残っていなかった。 ただ、気くきたの男の妻として、これからのをを向いて、誇りくきていこうという静かな決だけが、満ののように美しく、ので輝き続けていた。

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