"認知症に仕立てた息子夫婦が奪った実印は偽物だった" 第3話
堂へご移ください』
はる子はよく眠れなかった。見慣れないベッド、見慣れない井、見慣れない匂い。慣れ親しんだものは何つない。隣のベッドは空のままで、ルームメイトはいないようだった。
体を起こし、鏡を見ると髪が乱れていた。で梳かし、ドアをけてにる。廊には老たちが列をなして歩いていた。杖をついた、子の、職員に支えられている。皆が同じ方向へ向かっていく。
はる子もそのろに続いた。
階の堂に着いた。いテーブルがいくつも並んでいる。はる子は空いている席に座った。
配膳でかぼちゃ粥といくつかのおかずを受け取る。甘いがしたが、欲は湧かなかった。スプーンを持ったり置いたりを繰り返すだけだ。
「初めての方?」
隣の席に座るおばあさんが尋ねてきた。歳は超えているように見える。
「ええ、昨来たんです」
はる子はさく頷いた。
「あらまあ、そうなの。慣れるまでしがかかるわよ」
おばあさんは親切だったが、はる子にはそれ以話す気力がなかった。
黙って俯き、粥をに運ぶ。
、ナースステーションに呼ばれた。
「はる子様でいらっしゃいますね」
「はい」
「こちらの規則についていくつかご説しますね」
職員から枚のを渡された。文字がぎっしりとかれている。
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「には保護者の同伴が必です。おではられません」
はる子のが止まった。
「面会は午からまでです。それ以のは制限されます」
はる子は唇を噛みしめた。
「部への話は保護者の同がなければできません。個の携帯話は紛失防止のため、保護者の方が保管されるのが原則です」
顔をげ、職員をまっすぐに見つめた。
「つまり、私はですることも、話をかけることもできないということですか?」
職員は困ったような表を浮かべた。
「規則ですので。おばあちゃんの全のためですから、ご理解ください」
はる子は元のを置いた。が微かに震えていた。
これは事実の監禁だった。
「バッグは返してもらえますか?」
「ええ、もちろんです」
職員は保管庫からバッグを取りし、渡してくれた。はる子は急いでを確認した。財布は入っていたが、やはり携帯話はなかった。
「携帯話は保護者の方がお持ち帰りになりました」
職員の言葉に、はる子は固くを閉じた。
これ以聞いても無駄だと悟ったのだ。
部に戻り、ベッドに座って窓のを眺める。敷の向こうをが通り過ぎていくのが見えた。あのに乗ってることさえできれば。
午頃、ナースステーションで話が鳴った。はる子が廊を通りかかった、偶然その会話がに入った。
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「はい、希望の介護ホームです」
職員の声だった。
「ああ、はい。はる子様のご族の方ですね」
はる子は歩みを止めた。さやかからの話だ。
「お母様の様子ですか? そうですね、まだ慣れていないご様子です。しにされていますが……」
はる子の臓がきくねた。
さやかが自分の様子を尋ねている。配しているからではない。監の確認なのだ。
「はい、わかりました。何か変化がありましたら、すぐにご連絡いたします」
話が切れる音がした。はる子は素くそのをれた。絶対に見つかってはいけない。部に戻り、息を潜めて座り込む。嫁がこの施設と繋がっていることはもはや確実だ。自分の状態を常に監しているのだ。
昼のになり、堂へこうとした、職員がドアをノックした。
「おばあちゃん、お届け物ですよ」
渡されたのはさな封筒だった。差はさやかになっている。
封筒をけると、薬の袋がつ入っていた。い錠剤だ。
いメモが添えられている。
『お母さん、忘れずにんでくださいね。に朝と夜に』
はる子はその薬をじっと見つめた。何の薬か全く分からない。
病院でもらった薬でもないはずだ。
「ご族の方が、必ずむようにお願いされていました。私がお伝いしますね」
職員がコップにを汲んできた。
「これは何の薬かごですか?」
「さあ。でもご族の方が送ってくださったものですから丈夫ですよ」
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