"認知症に仕立てた息子夫婦が奪った実印は偽物だった" 第5話
「保護者の方の署名はいただきましたか?」
「はい、昨いただきました。ではの病院への付き添い、よろしくお願いします」
はる子は歩みを止め、を澄ませた。
「保護者の方が直接署名されたので問題ないでしょう」
自分の同なしに類の続きがめられているのだ。
昼過ぎのことだった。ナースステーションの話が鳴った。
はる子は気配を殺してくの子に座っていた。
「はい、希望の介護ホームです」
しばらくして、職員の声が聞こえた。
「さやか様ですね。はい」
はる子は息を殺した。
「検査の予定ですか? はい。の午に予約が取れています。私が付き添います」
嫁が急がせている検査があるらしい。
「はい。ご配なく、順通りにめますので」
話が切れた。
はる子は静かに席をった。の力が抜けそうだったが、必に堪えた。
部に戻り、ペン型録音を再び取りす。
これをどこに隠すべきか。
クローゼットをけ、着るを選んだ。
黒いズボンとグレーのセーター、そして着。
はる子はズボンの内側の縫い目を確認した。
針と糸を取りし、ズボンの縫い目を丁寧にほどいて、さなポケットを作り始める。
針、針。は震えていたが、作業は正確だった。ペンがすっぽり入るだけの空が完成した。滑り込ませてみるとぴったりだった。
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から見ただけでは全く分からない。
夕、廊を歩いているとろから声をかけられた。
「おばあちゃん」
振り返ると、活指導員の泉さんだった。代くらいに見える温な女性だ。
穏やかな表でづいてくる。
「ここになれるのは変でしょう」
はる子は目を伏せた。監されているとしては、迂闊に答えたくなかった。
しかし泉さんは急かすことなく、静かに待ってくれている。
「……はい」
はる子のさな声に、泉さんの表が揺れた。
同がよぎったが、それは憐れみではなくからの気遣いに見えた。
「最初は皆さんそうですよ。丈夫、きっと慣れますから」
泉さんははる子の肩を軽く叩き、静かにってった。
はる子はその背を見送った。胸の片隅が温かくなる。あのは違うかもしれない。私の方になってくれるかもしれない。部に戻り、ベッドに座って着るを再度確認した。
ズボンの縫い目の内側、ペン型録音が隠されている所を撫でる。窓のはすっかり暗に包まれていた。、病院へく。そこでどんな会話が交わされるかは分からない。
しかし、準備はできている。
「私がすべきことはつ。聞いて、残すこと」
さく軽いペンだが、今やそれが最の武器だった。
ベッドに横になったが、眠れなかった。井を見つめながら、考えを巡らせる。
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、病院へ認症の検査を受けにくのだ。
はる子は目を閉じ、過を振り返り始めた。ヶからおかしなことが続いていた。嫁のさやかはしきりに健康診断を勧め、息子の健は通帳の管理をしたがった。
「最物忘れがひどくなっていませんか」という言葉も頻繁ににするようになった。
当はただ配してくれているだけだとっていた。
しかし今えば、全てが図なものだったのだ。
はっきりと覚えていることがつある。
つ目は薬のことだ。週ほどのことだった。
さやかが薬を持ってきた。
「お母さん、栄養剤ですよ。を守ってんでくださいね」
見たことのないい錠剤だった。
「これは何?」
「ビタミン剤です。記憶力に良いそうですよ」
さやかは薬とをはる子のに置き、急かすように言った。
「でむわ」
「今んでください」
さやかの声が変わった。優しかった調が消え、完全な命令調になっていた。
「を守らないと効果がないんです。さあ、んでください」
はる子は薬をに取ったが、腑に落ちなかった。
には入れたがみ込まず、をむふりをして舌のに隠した。
「ちゃんとみましたね?」
「ええ」
はる子が頷くと、さやかは空のコップを持って満そうに微笑んだ。
すぐにトイレへき、薬を吐きした。
ティッシュに包み、ゴミ箱の奥くに捨てた。
なぜわざわざを守ってめと言うのだろう。なぜ今すぐめと急かすのだろうとだった。
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