みかん小説
本棚

"預金拒否の令嬢、五千億の審判" 第1話

「貧乏は預しないでよ」

の装飾が施されたい井から、豪奢なシャンデリアの眩いがり注ぐ。

百もの着飾った男女が集う都内屈指の級ホテルの宴会が、そのな言で氷点に凍りついた。

グラスをわせた氷の音すら途絶え、会内のあちこちから線がつのテーブルへと突き刺さる。

線の先では、名ブランドのドレスにを包んだ女が、細い指先でグラスを揺らしながら笑を浮かべていた。

リカ、歳。

この域帯に絶な響力を持つ方、平成の現取の実娘である。

彼女の酷な瞳の先には、量販で買った仕ての崩れた黒いスーツを着た、の男が静かに座っていた。

擦り切れた革靴をに揃え、膝のに無骨な両を置いて黙り込んでいる。

男の名は島亮、歳。

見すると、どこにでもいるうだつのがらない、疲れ切った貌の男にしか見えなかった。

リカはを引いた唇をのように歪め、周囲に聞こえよがしない声で言葉をねた。

「パパのはね、総預額兆千億円なのよ。島君のさな会社が持ってる端みたいな座なんて、正直言って迷惑なの」

周囲に群がる取り巻きの男女から、クスクスと品のない忍び笑いが漏れ聞こえる。

広告

亮は琥珀のウーロン茶が入ったグラスを見つめたまま、微だにせずく答えた。

「ああ、っているよ」

そのあまりにも平然とした受け答えに、優越に浸っていたリカの眉がわずかにねがった。

しかし、この男が背負ってきた過も、今この瞬に握りしめている途方もない力も、リカはまだ何もらない。

亮は膝ので固く握りしめていた拳をゆっくりとき、井を仰いでさく息を吐いた。

「……もう、いいか」

その呟きは、決して鳴り声ではなかった。

しかし、議なほど澄み渡り、静まり返った広な会の隅々にまでたく染み渡っていった。

リカはそうに目を細め、怪訝そうに首を傾げた。

「はあ? 何がもういいのよ。負け惜しみかしら」

それまでを殺し、ただ穏やかさを装っていた亮の瞳の奥に、今まで誰も見たことのない鋭利なが宿った。

亮がスーツの内ポケットにゆっくりとを伸ばし、スマートフォンを取りしたその瞬、巨なの運命が音をてて決壊を始めた。

「う、嘘よ……そんなの、絶対に嘘に決まってるわ……!」

やがて響き渡る女の絶叫を、こののリカはまだ像すらしていなかった。

親の権力を笠に着て者を踏みにじり続けた女の元が、今まさにガラガラと崩れ落ちようとしていた。

そのの午、亮は夕暮れに染まる郊の霊園にで佇んでいた。

広告

茜の空から落ちる暮のが、静まり返った墓の群れを赤く染めげている。

亮はにしたい百の束を、たいてに丁寧に供え、静かに両をわせた。

墓の正面には「島」という文字がく刻まれている。

亮のたったの母であり、享歳という若さでこの世をっただった。

母が過労で息を引き取ってから、すでにのが流れていた。

亮はをわせたまま、ひび割れた肌にそっと指先を滑らせた。

「母さん、今、学の同窓会があるんだ」

墓を吹き抜ける初のが、墓の周りに散った枯葉をカサカサと鳴らし、亮の頬を撫でていく。

まるで、たい墓のから母が優しく息子の声にを傾けているかのようだった。

亮は微かに唇を震わせ、静かに言葉を紡いだ。

「もし……あのが、しでも変わっていたら……」

そこまでにして、亮は自ら言葉を呑み込んだ。

それ以の台は、にする必がなかった。

変わっているはずがないという確信と、万がにも変わっていてほしいという淡いが、胸のでせめぎっていた。

しばらくの、無言で墓を見つめ続けた、亮はく礼し、ゆっくりと背筋を伸ばした。

スーツの内ポケットに入れた古びた財布の革越しに、母が遺した最のの温もりが伝わってくる。

『亮へ。あなたは私の誇りです。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: