みかん小説
本棚

"預金拒否の令嬢、五千億の審判" 第2話

どんなも胸を張ってきなさい』

鉛で震えるでかれたそのい文だけが、母をくし、孤独ので歯をいしばってきた亮ののすべてを支えてきた。

「ってくるよ、母さん」

亮は墓に向かって静かに呟くと、踵を返して霊園の坂をり始めた。

都のつホテルの正面エントランスに辿り着いたのは、夜の帳が完全にりた頃だった。

エントランスのには、メルセデスやレクサスといった級や黒塗りのハイヤーが次々と横付けされている。

ドレスアップした女性たちや、体に吸い付くような級スーツを着た男たちが、運転に会釈しながらりっていく。

その華やかな喧騒の脇を、亮は、最寄りの鉄の駅から分かけて歩いてやってきた。

量販の吊るしで買った万円の化繊のスーツは、の着用での端がテカリを帯びている。

元を包む黒い革靴の踵は斜めにすり減り、歩くたびに微かな違を裏に伝えていた。

ホテルマンが怪訝そうな目を瞬だけ向けたが、亮が胸元から取りした招待状を確認すると、即座に営業用の笑顔を貼り付けた。

「島亮様ですね。本の学同窓会の会は、エレベーターで階へがられました宴会でございます」

広告

「ありがとうございます」

亮はくをげ、な絨毯が敷き詰められたロビーを抜け、速エレベーターへと乗り込んだ。

階に到着し、宴会の巨な両き扉がけ放たれると、を聾するような笑い声と級なの気が波のように押し寄せてきた。

卒業やその関係者、男女わせて百くが集う空は、井からがる無数のスワロフスキーのシャンデリアに照らされ、眩いばかりのを放っていた。

会内には豪華なビュッフェ料理が並び、ウェイターたちがのトレイに載せたシャンパングラスを忙しなく運んでいる。

亮はその眩さに目を細めながら、会の最も隅にある目たない円卓へと静かにを寄せた。

くを通りかかった仕に声をかけ、アルコールではなくたいウーロン茶を杯だけ頼む。

グラスを受け取ると、亮は腰をろし、周囲の様子を静かに見渡した。

「うちの息子、今から私の医学部に入業してさ。寄付だけでも変だよ」

「まあ、素らしいじゃない。うちは主が港区で産投資を始めたんだけど、利回りが良くてね」

あちこちのテーブルから、につけている計のブランドや子どもの学先、投資の成果を誇示しう声がび交っている。

という歳は、無邪気だった子どもたちを、世俗の垢と見栄にまみれたへと変貌させるには分すぎるだった。

広告

亮はそれらの会話に加わることもなく、元のグラスに線を落とした。

琥珀の液体に映り込む、やつれた自分の顔。

その揺れる面の向こうから、のにまみれた記憶が、鮮な輪郭を持ってちがってきた。

亮の母、島は、この町で最の権力を誇る方「平成」の本で働く清掃員だった。

夫をくにくしたは、まだ学だった亮を女つで育てるため、朝のにをていた。

員たちが勤してくるに、広な本のたい理のを、膝をついて隅々まで雑巾で磨きげる。

窓ガラスを枚枚拭き清め、皿を洗い、営業が始まれば裏方のゴミ処理に追われた。

営業が終わった夕方からも再びモップを握り、夜遅くまで清掃作業を続ける毎だった。

や祝であっても休むことはなく、別のビルの清掃現へと自転をらせていた。

体を休める暇などたりともなかったはずなのに、は亮ので音や愚痴を吐いたことが度もなかった。

「亮、今も元気に学へっておいで」

毎朝、荒れて赤く腫れたで握ってくれた塩むすびの温もりを、亮は今でも忘れることができない。

平成は、この域において単なる融関を超えた、絶対君主のようなだった。

元の企業への融資から、個の宅ローン、さらには方自治体の指定融関に至るまで、町の経済の血液をすべて牛っていた。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: