"更地にした二千万の家" 第4話
「でも本でしょう」
幸が最の段にた。
「千万円返せ! 詐欺で訴えるぞ!」
「詐欺?」
私は正面から息子を見た。
「私はを建てるために使ったわ。ただ、もう必なくなったから処分するだけ」
「必なくなった?」
「ええ。あなた言ったわよね。アパートでも借りれば、パンの収入があるでしょうって」
幸は黙った。
私は歩づいた。
「なら私も同じことを言うわ。あなたたちこそ、アパートでも借りたら?」
の壁が次々と崩れていく。
マリの両親も駆けつけた。
目のの景に、は呆然とち尽くす。
私は丁寧にをげた。
「申し訳ございません。ご覧の通り、がなくなってしまいまして」
マリの父が震える声で尋ねる。
「どういうことですか」
「私の判断ミスです。息子夫婦には関係ないだと言われたものですから、慮なく処分させていただきました」
夕方までに、築は完全に瓦礫のになった。
幸とマリは、そので言葉を失っていた。
私は最に息子へ言った。
「幸。お父さんが最に言った言葉、覚えてる?」
幸はうつむいた。
「息子をよろしくって。でも、あなたが私を族じゃないと言ったなら、お父さんの願いももう関係ないわよね」
そう言って、私は瓦礫を背に歩きした。
か。
瀬戸内の見えるさな港町に、しいパンがした。
板にはこうかれている。
広告
――原ベーカリー の見える。
そのには、夫・健の名もさく刻んだ。
「かずよさん、今もいい気ね」
所のが声をかけてくれる。
私は焼きがったパンを棚に並べながら笑った。
「ええ。からのが気持ちいいですね」
内には懐かしい顔もあった。
以の常連客、田さんだった。
「原さん、やっと見つけましたよ」
「田さん、こんなくまで」
「くなんてことないですよ。原さんのパンがべたくて探し回ったんです」
目に涙が浮かんだ。
田さんは内を見回して言った。
「素敵な所ですね。よりるいじがします」
「ええ」
私はの見える窓を見た。
「健さんと、いつかの見える所でパンをしたいねって話していたんです」
方、幸とマリの活は崩れていた。
マリの両親はのに呆れ、同居を取りやめた。
「あなたたちが先に族じゃないと言ったんでしょう」
そう言い残し、から距を置いた。
幸とマリのにも亀裂が入った。
「全部あなたのせいよ」
「君だって賛成したじゃないか」
の言い争いはにに増えていったという。
私はもう、その話を聞いてもが揺れなかった。
ある、元の聞記者が取材に来た。
「歳でにをされたそうですね」
「ええ。に遅すぎることはないといまして」
「お客様にされる秘訣は?」
私はし考えて答えた。
「真を込めること。それだけです。、変わりません」
夕暮れ。
を閉めたあと、私は辺にった。
オレンジに染まる空を見げ、ので夫に語りかける。
「健さん、私、やったわよ。あなたとのを叶えたの」
潮が頬を撫でた。
私はく息を吸った。
「もう誰にも慮しない。これからは自分のためにきるわ」
波の音が優しく響いている。
裏切られたことで、私は失った。
けれど同に、本当の自由をに入れた。
もまた、美しいパンを焼く。
誰かのためではなく、自分のをきるために。
― 完 ―
広告
おすすめ作品
-
完結第19話
棺の中の男を、夫は知らない
親を捨てて逃げた冷酷な男だと親族中から罵倒される義兄の葬儀で、義母は涙を流し、夫を支えの孝行息子だと称えていた。だが焼香台へ進む夫の前に立ちはだかった私は、「あなた、本当に棺の中にいるその人を知っているの」と告げた。夫が隠していたのは、過去五年間、毎月義兄へ送り続け、そのたびに全額突き返されていた六十回分の送金記録だった。血の気を引かせる夫と親戚の前で、私はその明細を祭壇の上に広げた。兄弟姉妹|親不孝|絶縁|親子関係|修羅場2.8万字5 88 -
完結第23話
母の職場で死んでいた私
母の定年退職をサプライズで祝うため、私は東京から新幹線に乗り宴会場へ駆けつけた。お祝いの品を手にして扉を開けた瞬間、母の同僚は手にしたグラスを取り落とし、顔を青ざめて後ずさりした。毎年盆と正月には実家へ顔を出し、仕送りも続けていたはずの私は、母が二十八年勤めた職場では十五年前に事故で亡くなった娘として扱われていた。ステージを駆け下りてきた母は私の手首を強く掴み、そのまま非常階段へと力任せに引きずり出した。親不孝|親子関係|退職金|修羅場3.5万字5 781 -
完結第21話
解雇された職人が未明に餡を練る
創業五十周年を控えた和菓子屋で働く私は、常連客の前で二十五年尽くした職人が店主に突然解雇される場に居合わせた。跡を継ぐため会社を辞めて戻った一人息子がいるものの、看板である漉し餡の技術はまだ誰にも継がれていない。店が立ち行かなくなると焦った私が翌朝四時に店へ駆け込むと、暗い厨房で追い出されたはずの職人が大鍋を振っていた。仕上がった餡を前に、朝一番に出勤した店主は無言で味見の木さじを口へ運んだ。裡切られた|親不孝|親子関係|修羅場3.2万字5 172 -
完結第19話
席次表から消された姉
披露宴の席次表を確認していた時、婚約者は親族席にある私の姉の名前を赤ペンで乱暴に塗りつぶした。介護士の姉を親戚に見せるのは家の格に関わると吐き捨てる彼に、私は必死で抗議した。だが、両親のいない私を育ててくれた姉は、侮辱されても取り乱すことすらしなかった。ただ、赤線の引かれた名前を静かに見つめ、「彼のお父さんが去年入院した時、毎晩誰が付き添っていたか聞いてごらん」と私に告げた。裡切られた|兄弟姉妹|親不孝|介護|修羅場2.9万字5 428