"マカオに消えた花嫁" 第13話
浩司はそのから1つをに取った。ずしりといそれをかじると、し塩辛いが、お米の優しい甘みと苔のりがのに広がった。それは、本の庭のだった。 この異国ので、しい族が懸命に自分の文化を理解しようとしてくれている。その事実が、温かい塊となって彼の胸に込みげてきた。 「……美しいよ。世界で番美しいおにぎりだ」 浩司がそう言って微笑むと、美玲は満面の笑みを浮かべ、劉梅の瞳にも堵のが浮かんだ。 それは、決して派ではないが、確かな幸福の景だった。
つの文化が交わる族の常は、マカオと本の歳をなぞるように、穏やかに過ぎていった。 がドラゴンダンスのドラの音と爆の薬の匂いに包まれる旧正の祭りには、族3で寺院にかけ、線をげて1の無事を祈った。
Linuxの導入や本のが訪れる8、彼らは自宅にさな祭壇をしつらえた。 綺麗に磨かれたさなテーブルのに子の写真と、美玲が覚えたてのひらがなで「あいこさんへ」といたカード、そして劉梅がけたい菊のが飾られる。 これが、彼らなりのお盆だった。3は写真ので静かにをわせる。
(子、ごめん。俺は今、こうしてきている。この子たちと緒に……) 浩司のからの呟きに、隣で劉梅がそっと寄り添う。
広告
そして、さな声で、覚えたての本語を紡いだ。 「子さん、どうからかに眠ってください。こののこと、見守っていてください」 その言葉は、浩司の過を受け入れ、子のをも族の歴史の部として抱きしめようとする、劉梅のいの証だった。
美玲はたちの真似をして、さなを懸命にわせていた。 その姿を見つめる浩司の瞳から、筋の涙が静かに流れ落ちた。 しみや悔だけではない、謝と、そしてしさが入り混じった、温かい涙だった。
定期に、彼らは本の族とテレビ話で顔をわせた。画面の向こうには浩司の両親、そして田夫妻の姿があった。 最初はい表だった佳子も、画面ので屈託なく笑う美玲の姿に、いつしかその表をらげるようになっていた。
あるのこと、劉梅がたどたどしい本語で佳子に話しかけた。 「いつも浩司さんを支えてくださって、ありがとうございます。彼がを向いていられるのは、佳子さんたちが彼を許してくれたからです」 その言葉に、佳子はしばらく沈黙した。そして、画面越しの劉梅の瞳をじっと見つめると、静かに言った。 「許しだなんて、そんなげさなものじゃないのよ。ただ、娘のを背負って必できようとしているを、憎み続けることはできなかった、それだけ。
広告
……劉梅さん、あの子を、浩司さんをどうかよろしくお願いしますね」
それは、被害者の母親から加害者族への言葉ではなかった。 国境を越え、息子と娘を案じるの母親のにまれた、静かで、しかし揺るぎない絆の言葉だった。
話を切った、浩司は窓のに広がるマカオの夜景を見つめていた。 カジノのがのように瞬き、は眠らない。 この華やかなのので、彼は12もの、孤独なのにいた。 しかし、今は違う。彼の隣には劉梅と美玲がいる。そしてい本には、彼の罪を見つめ、それでもなお繋がっていてくれる族がいる。
田浩司は、涯この罪を背負い続けるだろう。子の命のさが消えることは決してない。 然而、その劇の終着点にまれたのは、憎しみの連鎖ではなかった。 それは、血の繋がりも、国境も、そして加害者と被害者という残酷な垣根さえも超えて紡がれた、と贖罪が折りなす、奇跡のような族の絆だった。 彼はもう、1ではない。その事実だけが、彼のこれからのを照らす、唯無の希望のだった。
広告
おすすめ作品
-
完結第11話
九時三十四分の地下鉄、消えた暴行犯
午前九時三十四分、地下鉄の車内で若い男が突如狂乱し、中年客の顔面を骨が軋むほど殴打した。床一面に飛び散る鮮血。だが、隣に座る同じ社章をつけた上司は、ただ口をあわあわと震わせ「腰を抜かして」座り込むだけだった。乗客たちと男を取り押さえ、駅員にすべてを通報した俺。しかし翌日、警察の発表も新聞の三面記事も、この凄惨な事件を「最初から存在しなかった」かのように完全に黙殺していた。なぜあの凄惨な暴力は一行も報道されず、駅の防犯カメラ映像すら消去されたのか。数年後、俺はある大手企業の役員名簿の中に、あの朝、冷たいホームの柱にすがってガタガタと震えていた「あの上司」の顔写真を見つけ、息を呑んだ――。ミステリー|真実1.6万字5 101 -
完結第24話
目覚めた部下にクビを問われた
地方旅館の火災で客を救い出し重傷を負った部下が目を覚ました。だが彼女の記憶は直近の二年分が抜け落ち、着任初日の私が冷酷に解雇を迫った日のまま止まっていた。会社は避難扉が開かなかった責任を彼女の記憶喪失に乗じて背負わせようと、退職金の支払いを口実に過失を認める書類への署名を病室で迫る。何も思い出せない部下は震える手でペンを握り、かつて自分を追い詰めたはずの私を怯えた目で見つめた。職場逆転|真実|裡の顔|修羅場3.7万字5 691 -
完結第20話
教室の最後列に座る元教員
定年退職した元教員の私は、一度も教えたことのない男子生徒の保護者会に、身元を偽って六年間通い続けていた。教室の最後列から見つめる先には、油まみれの作業着を着た父親が座っている。受付簿の不審な記録に気づいた校長から昇降口で問い詰められた帰り道、桜が散る坂道でその父親が私の前に立ちふさがった。二十四年前の元教え子だったその男は、振り返りもせず、私の背中に向けて「あの席、あと何年座るつもりですか」と低く告げ怒り|真実|親子関係|修羅場3.1万字5 122 -
完結第23話
十八年ぶりの切符「次は三人で来い」
「二度と敷居を跨ぐな」――十八年前、父・源蔵の激しい怒声を背に村を飛び出した美雪。母の葬儀すら拒絶し、東京で夫の高一、息子の蒼太と平穏な家庭を築きながらも、心の奥に深い罪悪感を抱え続けていた。 ある秋の日、頑固一徹だった父が倒れたとの報せが届く。恐る恐る帰郷した美雪を迎えたのは、小さく老いさらばえた父の姿だった。互いに素直になれぬまま病室で交わしたわずかな言葉。だが、生家から持ち帰らされた重い桐箱と古いボストンバッグを開けた瞬間、美雪の息は止まる。 そこには、出金記録ゼロのまま膨れ上がった美雪名義の通帳と、十三年前の日付が記された「高一君へ」という父の手紙が眠っていた。父が十八年間隠し通してきた、想像を絶する真実とは――。真実|修羅場3.5万字5 1026 -
完結第19話
三十二人目の卒業写真
教職を退いた夜、三十年前に送り出した最初の教え子たちが開いてくれた送別会で、私は三十一人分の感謝の手紙を受け取った。だが自宅で数え直すと、名簿にない三十二通目の白い封筒が混ざっていた。便箋には「全員が卒業しました。私一人を残して」とだけ記されていた。翌日、私が困惑して生徒たちに当時の記憶を尋ねると、誰もが存在を否定し、深夜の受話器の向こうから「あの子のこと、墓場まで隠し通すつもりですか」昭和|ミステリー|因果応報|真相2.8万字5 176 -
完結第18話
ゴミ箱の隣に座る学年一位
学年1位を守り続けてきた娘が、二学期に入ると突然一番後ろの席に移動させられ、学級委員長も外された。何か処分を受けたのかと学校へ詰め寄る私に、娘は「この席でいいの」とだけ言い、何も説明しようとしない。納得できないまま迎えた参観日、教室の後ろに立つ私は、娘の隣にぽつんと置かれた空っぽの机に気づいた。誰の席なのかと問い詰める私に、担任は教室の隅を見つめ、「娘さんが残してくれと頼んできたんです」と静かに告げた。怒り|真実|孤獨|親子関係|修羅場2.8万字5 161 -
完結第25話
一度も抱かれなかった娘
出産翌日に姿を消した妻の代わりに、私は男手一つで娘を育ててきた。「母親は抱っこも拒んで逃げた」と言い聞かせ続けて五年。カルテの保管期限が切れ、産院に呼び出された私の前に置かれたのは、妻が失踪直前に提出した母子同室申請書と一枚のガーゼだった。申請書の最下段には私の拒否印が押されており、持ち帰った鞄からこぼれ落ちた布を拾い上げた五歳の娘は、ピンクの刺繍を指でなぞりながら私を見上げた。夫婦|真相|行方不明|親子関係3.8万字5 142 -
完結第21話
十年前に死んでいた夫
病に倒れた夫を十三年間看取り、質素な火葬を終えた私は、医療記録の精算のため大久保総合病院の窓口へ向かった。だが職員から告げられたのは、データベースに夫の名はなく、提示した診察券は十年前に死亡した二十代の別人の番号だという宣告だった。半乱心で戻ったアパートを捜索するも、夫名義の保険証も免許証も通帳すら一枚も見当たらない。十三年間私の隣で息をしていた男の痕跡が、この世のどこにも存在しない現実に立ち尽くした。ミステリー|夫婦|介護|修羅場3.1万字5 2982 -
完結第17話
何番まで落ちたら離婚するの
三年連続で学年一位を取り続ける十二歳の息子。深夜まで勉強に付き添う私と、追い詰めるなと制する夫は、外食先でも教育方針を巡って激しく口論していた。沈黙していた息子は突然、「僕が何番まで落ちたら二人は離婚するの」と冷たく言い放ち、鞄から直近三回分のテスト用紙を取り出した。そこに並んでいたのは、最難関の応用問題だけが解かれ、一番簡単な基礎計算だけを全て意図的に間違えた、信じがたい異様な答案だった。夫婦|真実|親子関係|修羅場2.6万字5 621