"地図にない赤札の家" 第7話
は集落を抜けていく。
に古い。
に畑。
また。
また暗。
の姿はない。
犬の鳴き声もない。
の音すら聞こえない。
辺は助席で両を組み、ずっとを見ていた。
「田さん、ろ……見ない方がいいですか」
「見るな」
田は即答した。
自分でもバックミラーを見ないようにしていた。
もし、部座席に何かが映っていたら。
もし、あの窓にいた男がろに座っていたら。
もし、畜舎にいた黒い獣が、のを追ってきていたら。
そんな考えを振り払うように、田はだけを見た。
やがて、集落のれに差しかかった。
そこを抜ければ、国へつながるにるはずだった。
のライトの先に、ようやく見覚えのある標識が見えた。
田は胸ので息を吐いた。
「もうしだ」
辺は何も言わなかった。
ただ、さく何度も頷いていた。
そして2は、そのまま集落を抜けた。
ろを振り返ることはしなかった。
その、2は何事もなく町まで戻った。
きなにて、コンビニのかりが見えた、辺は助席で声を詰まらせた。田もそのかりを見た瞬、ようやく自分が現実の世界に戻ってきたような気がした。
コンビニの駐にをめると、2はしばらくけなかった。
内から漏れる蛍灯のかり。
自ドアの閉音。
駐でスマートフォンを見ている若者。
広告
それらが、さっきまで自分たちがいた所とはあまりにもかけれていた。
「……警察に言いますか」
辺がぽつりと呟いた。
田は答えに詰まった。
畜舎ので見たものが本当に遺体なら、当然通報すべきだった。だが、あの所をどう説すればいいのか。図に表示されないを1んだ先の廃。窓にいた男。赤い札だらけの。無数の獣の鳴き声。畜舎の首吊り遺体。
どこまでが本当で、どこからが恐怖で歪んだ記憶なのか、田自にも分からなくなっていた。
「映像を確認しよう」
田はそう言った。
辺は震えるでカメラを取りした。バッテリーを戻し、録画データを再する。
から撮された。
荒れた舗装。
母の観。
朽ちた畜舎。
そこまでは映っていた。
だが、窓に男が映ったはずの面になると、画面がきく乱れた。ノイズがり、映像がく潰れる。音声には、障りな雑音だけが残っていた。
玄関をけた面も同じだった。
赤い札がびっしり貼られていたはずのは、ほとんど映っていなかった。黒い波のようなノイズが画面を覆い、ところどころ赤いものがちらつくだけだった。
そして、畜舎の面。
辺が震えながら再ボタンを押す。
画面は激しく揺れていた。2がっているの映像だ。カメラが面や空を映し、落ち葉が流れるように通り過ぎる。
広告
次の瞬、畜舎の入らしき暗が瞬だけ映った。
そこに何かが吊られているように見えた。
しかし、すぐに映像は乱れた。
音声だけが残った。
無数の獣の鳴き声。
縄がきしむような音。
そして、辺自の鳴。
2は言葉を失った。
辺は画面を止め、青ざめた顔で田を見た。
「あれ……本当にありましたよね」
田はしばらく黙っていた。
あった。
確かに見た。
しかし、映像には決定なものが映っていない。
警察に持ってっても、説できるのはノイズだらけの映像と、取り乱した自分たちの証言だけだった。
結局、その素材は番組で使われることはなかった。
田は層部に報告したが、「危険な所には今づかないこと」「元で止められた所には無理に入らないこと」と注され、企画の失敗談として処理された。
だが、田と辺のでは、それは単なる失敗談では終わらなかった。
、田はもう度図であの所を確認しようとした。
写真には、確かにあのらしきものが映っていた。母と、きな畜舎のような建物。だが、そこへ続くはずのは、やはり図には表示されていなかった。
集落のたちに再び話を聞こうとしたが、番組としてその所に関わることは止められた。
田は今でも、あの老の言葉をいすという。
「そこには誰もんでいない」
広告
それなら、あの窓からこちらを見ていた男は誰だったのか。
畜舎ので揺れていたものは何だったのか。
元に群がっていた黒い獣は、本当に豚だったのか。
そして、夕暮れの集落で軒もかりがついていなかったのは、偶然だったのか。
答えは分からない。
ただ、田はそれ以来、写真で奥の軒を探す、必ず元のの反応を見るようになった。
もしがを閉ざし、目を逸らし、ただ言だけこう言ったなら。
「そこにはかない方がいい」
そのは、どれほど番組に魅力な所でも、絶対にづかない。
奥には、がんでいるだけがあるわけではない。
がんではいけない所。
がづいてはいけない所。
そして、図にも記されないまま、誰かが忘れたふりをしている所が、確かにするのだという。
広告
おすすめ作品
-
完結第21話
日本一情の深い父の裏の顔
妹がサービスエリアで姿を消して5年。全国を巡り「日本一情の深い父親」と称賛される父から、私は古いワゴン車を譲り受けた。だが車内の清掃中、妹の指定席だったシートベルトが事故の衝撃で「4センチ」伸びきっているのを発見する。さらに奥底から見つかったのは、刃物で切断された妹の防犯ブザーだった。父に問いただすと、かつてない冷酷な声で「今すぐ車を処分しろ」と脅され――。私は父の狂気と真実を暴くため、ある決断を下す。ミステリー|裡の顔|真相|行方不明3.1万字5 75 -
完結第22話
側溝の底のGPS
六年前に娘を事故で亡くし、近所から「不注意な母親」と後ろ指を指されながら暮らしてきた私。ある朝、向かいの名士宅との境界にある側溝の泥から、泥まみれの「娘の見守りGPS」を掘り出した。壊れた端末のログを開くと、六年間、豪雨の深夜になるたび、向かいの家のWi-Fiと通信を繰り返していた。問い詰めた夫が無言で開けた物置には、壁一面に貼られた隣家の行動記録と、五年間密かに改造されていた配管図面があった。ミステリー|因果応報|裡切られた|真相3.3万字5 223 -
完結第11話
九時三十四分の地下鉄、消えた暴行犯
午前九時三十四分、地下鉄の車内で若い男が突如狂乱し、中年客の顔面を骨が軋むほど殴打した。床一面に飛び散る鮮血。だが、隣に座る同じ社章をつけた上司は、ただ口をあわあわと震わせ「腰を抜かして」座り込むだけだった。乗客たちと男を取り押さえ、駅員にすべてを通報した俺。しかし翌日、警察の発表も新聞の三面記事も、この凄惨な事件を「最初から存在しなかった」かのように完全に黙殺していた。なぜあの凄惨な暴力は一行も報道されず、駅の防犯カメラ映像すら消去されたのか。数年後、俺はある大手企業の役員名簿の中に、あの朝、冷たいホームの柱にすがってガタガタと震えていた「あの上司」の顔写真を見つけ、息を呑んだ――。ミステリー|真実1.6万字5 101 -
完結第19話
三十二人目の卒業写真
教職を退いた夜、三十年前に送り出した最初の教え子たちが開いてくれた送別会で、私は三十一人分の感謝の手紙を受け取った。だが自宅で数え直すと、名簿にない三十二通目の白い封筒が混ざっていた。便箋には「全員が卒業しました。私一人を残して」とだけ記されていた。翌日、私が困惑して生徒たちに当時の記憶を尋ねると、誰もが存在を否定し、深夜の受話器の向こうから「あの子のこと、墓場まで隠し通すつもりですか」昭和|ミステリー|因果応報|真相2.8万字5 176 -
完結第21話
十年前に死んでいた夫
病に倒れた夫を十三年間看取り、質素な火葬を終えた私は、医療記録の精算のため大久保総合病院の窓口へ向かった。だが職員から告げられたのは、データベースに夫の名はなく、提示した診察券は十年前に死亡した二十代の別人の番号だという宣告だった。半乱心で戻ったアパートを捜索するも、夫名義の保険証も免許証も通帳すら一枚も見当たらない。十三年間私の隣で息をしていた男の痕跡が、この世のどこにも存在しない現実に立ち尽くした。ミステリー|夫婦|介護|修羅場3.1万字5 2982 -
完結第12話
左足だけの靴箱
隣室の吉岡さんが部屋で亡くなった。付き合いのなかった老人の遺品整理に立ち会った彩香は、業者から「故人の遺言」として段ボール箱を手渡される。中に入っていたのは、彩香が過去5年間に自宅の玄関から消えたはずの「左足の靴」12足。そして、それと対になる新品の右足の靴。靴底をめくると、そこには夫が「深夜残業」と偽っていた日付のタクシー領収書が隠されていた。妻が知ることになる、5年前の事故と夫の病的な贖罪の真相とは。ミステリー|夫婦1.8万字5 47 -
完結第19話
全員が揃えた同じ嘘
小学五年の秋、担任の女性教諭が突然退職し、学校は精神の病気だと説明した。だがその日の放課後、私を含めたクラス二十三人の児童は、それぞれの家庭で「先生は午後三時に帰りました」と全く同じ嘘を親に答えた。口裏を合わせた覚えはない。半年後、唯一何も言わずに転校していった無口な少女が、私の机の引き出しに一枚のメモを残した。そこには『先生は三時のとき、まだ地下室にいました』と記されていた。ミステリー|裡の顔|真相|行方不明2.8万字5 95 -
完結第11話
亡き義母の口座を洗う女
3年前に7年間の壮絶な介護の末に他界し、この手で骨壺に納めたはずの義母。だが解約し忘れていた古い通帳を繰り越すと、死後も毎月「生前給与」が振り込まれ、毎週水曜の深夜に即座に引き出されていた。深夜のコンビニで張り込んだ私が見たのは、義母の服を着て義母と全く同じ体の癖を持つ見知らぬ女。死者は生きているのか。真実を追う私は、隣で眠る夫が隠していた、狂気と冷酷に満ちた「生前名義ビジネス」の底なし沼へと引きずり込まれていく。ミステリー|嫁姑|夫婦1.6万字5 51