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"赤鬼教師が認めた禁断の解答" 第5話

鬼塚鉄男の厳めしい元に、微かな、しかし紛れもない笑みが浮かんでいた。 普段、徒たちから「赤鬼」と恐れられ、則違反の取り締まりや指導の席で度たりとも眉を緩めたことのないこのベテラン教師が、まるで秘密の宝箱を偶然見つけした子どものような、奇妙に柔らかいをその細い瞳の奥に宿していた。

「号を暗記し、記号を記号として処理するだけの秀才など、いくらでもいる」

鬼塚はパイプ子の背もたれにゆっくりと体を預け直した。季の入った革張りの肘掛けが、ぎしりとい軋み声をげる。

「隣のクラスを覗いてみろ。あるいは、職員の推薦会議の類のを見てみるがいい。そこにはな、寸分狂わず表を再現し、正誤問題を械のように満点で通過する徒たちの名が、それこそほど転がっている。彼らは優秀だよ。試験で良い点を取り、名のれた学へ学し、領よく社会の歯になっていくだろう。だがな……」

鬼塚は度言葉を切り、机のに置かれていためきったほうじ茶の湯呑みに線を落とした。ちる湯気はとっくに消え失せ、濃い茶の面には井の蛍灯が丸く反射している。

「だが、百の寺ので、元から吹きがる黒煙に巻かれながらち尽くした男の、その胸の内にあった臓の鐘のような鼓や、引き攣った喉の震えにまで像力をばせる奴など、滅にいない。

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いや、今の学教育のでは、むしろ真っ先に切り捨てられる性かもしれんな」

藤蓮は、たいパイプ子ので微だにできず、その言葉を言も漏らすまいと息を詰めていた。膝のに置いた両は、いつのにかじっとりと汗ばんでいた。鳴られるとばかりっていた。真面目だとされ、反省文の枚でもかされるのだと覚悟してここへ来たのだ。しかし、鬼塚のから紡ぎされる言葉は、説教などではなかった。それは、蓮がこれまでどの授業でもにしたことのない、淵で、どこか愁を帯びた歴史の講義だった。

「歴史とはな、藤。単なる過の記録の集積ではない。それは、すでに物言わぬとなった者たちとの対話なのだよ」

鬼塚はを乗りし、机のに広げられた蓮の答案用へとを伸ばした。 太い赤ペンで無残な巨バツが引かれ、その横に『像でかない。』という容赦のない講評が殴りきされた、枚のB4更。

「教科に並ぶ文字や号の向こう側に、々と同じように腹を空かせ、寒さに震え、理尽にり、そしてする者や信じた者に裏切られて絶望した、血の通ったのがいたのだ。その体温を、痛みをじる皮膚の覚を忘れぬ者だけが、本当ので過から未来を学ぶことができる。

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歴史を学ぶというのは、をるということだからだ」

鬼塚の節くれだった指先が、蓮の答案用の角を摘まみ、滑らせるようにして蓮の元へと押し戻した。更がスチール机の板を擦り、乾いた摩擦音をてる。

「その『えっ』という解答は、おが織田信という男を、ただの印刷された活字や英雄という記号ではなく、自分と同じ痛覚を持ったのとして捉えた証拠だ。……その性だけは、学へっても、社会へても、絶対に殺すなよ」

胸の奥を、く鋭い箸で突かれたような衝撃が蓮を貫いた。 喉の奥がツンと痛み、界がわずかに滲むのを蓮は必で堪えた。ただの屁理屈だとっていた。テストの最、どうしても『非に及ばず』という綺麗すぎる言葉に納得がいかず、半ば自暴自棄のような衝でき殴ってしまった「えっ」という言。それを、この厳格無比な教師は、ふざけた悪ふざけとしてではなく、歴史とに対する「誠実な像力」として受け止めてくれたのだ。

蓮は両で答案用を抱え込み、皺が寄らないように指先に力を込めた。

「……先。僕、歴史の勉、もっとやってみます」

それは、内申点のためでも、次のテストで良い点を取るためでもない、蓮の根の底から自然に零れ落ちた本音だった。過という暗の向こうで息絶えていった無数のたち。

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