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"赤鬼教師が認めた禁断の解答" 第10話

「……あんたって、本当に変な奴ね」

葵の声は、震えていた。だがそれは寒さのせいではなく、の奥底にある固い殻が、内側からさく軋んだ音のようだった。

「私ね、ずっと怖かったの」

「え?」

葵は俯き、自分のローファーの爪先を見つめながらポツポツと言葉を紡ぎした。 「私、さい頃からずっと『優等の野さん』だったでしょ。テストではいつも百点を取らなきゃいけない、違えちゃいけない、先の言う通りの模範解答をかなきゃいけない……そうやって自分を縛り付けてきてきたの。歴史の勉だってそうよ。私にとって歴史は、ただの記号の暗記だった。問答の問題集を何百回も解いて、模試の偏差値をげて、判定をAにするための具。そこにきてたがどんな顔をして、どんな痛みをじてたかなんて、考えたこともなかった」

葵はゆっくりと顔をげた。灯の逆ので、その瞳が濡れたようにっていた。

「今のテスト、あんたが横の席で、ものすごい形相で唸りながら解答用を睨みつけてたの、実は見えてたのよ。『何やってんだろ、こいつ』ってってた。でも……さっき職員から戻ってきたあんたの顔を見て、それからそのゼロ点の答案を見て……私、ものすごく恥ずかしくなったの」

「葵が……恥ずかしい? なんでだよ、おは満点だったじゃないか」

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「満点の切れに、何のがあるのよ!」 葵の声が、夜の宅にしだけく響いた。彼女はすぐに元を押さえ、周囲を気にするように肩をすくめたが、その差しは真剣そのものだった。

「私は、太田牛がいた『非に及ばず』っていう記号を、の引きしから取りして答案にからへき写しただけよ。そこには私のなんてミリも入ってない。でもあんたは違った。あんたは百の本能寺に自分のをばして、煙の臭いを嗅いで、信と緒に恐怖をじて、そので鉛をかしたのよ。鬼塚先が言った通りよ。あんたは者と対話したの。私には……そんなこと、逆ちしたってできなかった」

葵は寂しそうに微笑んだ。その笑顔は、学で見せる完璧な優等の仮面を剥ぎ取った、等の歳の女の脆さをそのままさらけしていた。

「私、ずっと推薦入試のことばかり考えてた。評定平均をカンマつ落とさないように、先の顔を窺って、教科の枠からはみさないようにビクビクしてきてた。……でもね、蓮。あんたのあの『えっ』っていうの抜けた答えを見たとき、私、胸がすくような気がしたの。歴史って、そんなに自由にじていいんだって。って、もっと無様で、い通りにいかなくて、だからこそおしいものなんだって……あんたのゼロ点の答案が、私に教えてくれたのよ」

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蓮は目を見張ったまま、何も言えずにち尽くしていた。 学トップの葵が、自分のような万赤点スレスレの劣等に対して、そんないを抱いていたなんて、にもわなかった。

「……葵」

「何よ」 葵は照れ隠しのように唇を尖らせ、プイと横を向いた。 「勘違いしないでよね。あんたの解答がテストとして違ってるのは事実なんだから! 学入試でそんなこといたら発で落とされるんだからね!」

「あはは、わかってるよ。入試の本番では、ちゃんと『非に及ばず』ってくよ。泣く泣く、を鬼にしてな」

「そうしなさい。……でも」 葵は歩きし、し先から振り返って蓮を見つめた。 その瞳には、先ほどの翳りはもうなかった。夜に揺れる髪の隙から、悪戯っぽく、そしてとびきり優しいが零れ落ちていた。

「もしあんたが将来、歴史の学者になったり、説になったりしたら……そのは、信が最初に『えっ』って言った本をきなさいよ。私が最初の読者になってあげるから」

蓮の胸の奥で、カチリと何かが音をてて噛みった。 将来何になりたいのか、どの学へって何を学びたいのか、ずっと曖昧なのにあった自分の輪郭が、ほんのしだけ鮮になったような気がした。

「……おう。約束な。印税が入ったら、メロンパン百個奢ってやるよ」

「百個もべたら太るでしょ! バカ蓮!」

は再び笑い声をげながら、商のかりを目指して歩調を速めた。

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