みかん小説
本棚

"月5000円を貯めて泊まった旅館で、妻が「お嬢様」と呼ばれた" 第19話

幼い顷の彩佳は、よく帐场の松冈さんの横に座っていたという。

お客様が玄関に入ってくると、松冈さんの真似をしてさな头をげた。

「いらっしゃいませ」と言った。

お客様がお帰りになる时は、「ってらっしゃいませ」と言った。

松冈さんが微笑んだ。

「旅馆では、お泊まりのお客様が散策から戻られると『お帰りなさいませ』と申しげます。お嬢様は学から帰って来られると、玄関で私に向かって『ただいま帰りました』とお辞仪をなさったものです。まるでさな居さんのようでした」

松冈さんは目を细めた。

「6余り、お嬢様がゆいちゃんのを引いててかれた晩も、私は玄関におりました」

松冈さんの表が暗くなった。

「けれど、お声をかけることができませんでした。旦様の、お引き止めすることも、『ってらっしゃいませ』と申しげることも叶いませんでした」

俺はち止まった。

「そうだったんですか」

松冈さんは俺を见た。

「それから、毎玄関につたびに、いつかお嬢様がお帰りになったら、まず『お帰りなさいませ』と申しげようと决めておりました」

松冈さんは静かに息を吐いた。

「女将から、というお名で予约が入るかもしれないと伺ったのは9のことです。旦様には内绪に、とも言われました。先の终わりに予约にお名を见つけた时は、が震えました」

広告

松冈さんはそこで言叶を切った。

そして砂利を见つめた。

「実は、私にもをたきりの息子がおります」

俺は惊いて松冈さんを见た。

「息子さんが?」

松冈さんは颔いた。

「料理になると言って、东京へてきました。私が旅馆の仕事ばかりで、のことを妻に任せきりにしていたのが気に入らなかったのでしょう。10に喧哗をして、それきりです」

松冈さんは驻车场の砂利を见つめていた。

「待つのには惯れております。けれど、待つ侧にできることは、帰ってきやすい玄関を开けておくことくらいしかございません」

松冈さんは顔をげた。

「お嬢様が今お帰りになったのを见て、私ももうし待ってみようとえました」

俺は坂さんのことをいした。

「今度な、そのうちな」

そう言っているうちに、何も頼まれなくなった息子さんのことを。

待っている父亲は、どこにでもいるのかもしれない。

俺が车のトランクから荷物をしていると、段のから居さんがりにりてきた。

「様、旦様がお会いしたいとおっしゃっています。奥の座敷へお越しください」

俺は松冈さんと目がった。

松冈さんは何も言わず、たださく颔いた。

奥の座敷は、旅馆の客とは渡り廊で繋がった离れにあった。

居さんに案内されて袄のにつ。

広告

からかよさんの声がした。

「どうぞ、お入りになって」

俺は袄を开けた。

の间を背にして、の配の男性が座っていた。

髪をく刈り込み、を文字に结んでいる。

顔はやや青かったが、背筋は谁よりも真っすぐだった。

それが彩佳の父亲、桐正尾さんだった。

正尾さんの斜めに彩佳が座り、その隣にかよさんがいた。

ゆいの姿はなかった。

で闻くと、かよさんが気を利かせて古株の居さんに頼んだのだという。

ゆいは板场へ连れてってもらっていた。

厨の入りから、板さんがお茶菓子の练り切りを作るところを见せてもらっていたのだ。

俺は敷居ので膝をつき、头をげた。

正尾さんはしばらく俺を见ていた。

からまでゆっくりと见つめた。

「君が彩佳の夫か」

く通る声だった。

俺は顔をげて答えた。

「はい。かずやと申します。ご挨拶が遅くなり、申し訳ありませんでした」

正尾さんはで座布団を指した。

「座りなさい」

俺は彩佳の隣に座った。

座布団ので、膝がし震えていた。

正尾さんが寻ねた。

「仕事は何をしている?」

俺は真っ直ぐに正尾さんを见て答えた。

「配送会社で働いています。スーパーやドラッグストアに品や用品を运ぶ仕事です」

正尾さんはし目を细めた。

「収入は?」

部の空気がすっと张り诘めた。

かよさんが「あなた」とさく咎めるように言った。

正尾さんはかよさんの方を见なかった。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: