みかん小説
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"跡取りを産めぬと追われた嫁と、姑の漆塗りの小箱" 第5話

自分にできることはそれしかない。

翌から、おは町の隅にさな所を借り、酒粕を使った野菜の粕漬けを漬け始めた。

所を貸してくれたのは、通りの端で具を商う配の男だった。先の隅を融通してもらう代わりに、々わずかな所代を納める約束である。

根のないほんの坪ほどの所だったが、おには分だった。

根や瓜をく切り、酒粕と塩、しの砂糖を揉み込んで桶のへ丁寧にねていく。蔵で覚えた粕の匂いと、塩加減の見極めがここで役にった。

何度か見をしながら、粕の量を加減していく。ほど漬け込んだ頃いを見計らい、おは箱を運び、粕漬けを並べた。

それからきの札をてる。

『酒粕漬け、あります』

初、通りがかりの隣の女がを止め、切れつまんでを確かめた。

「これはなかなかのだね。どこのの品だい?」 「私でやっております。粕漬けです」

客はさく頷き、包み買い求めていった。おはそのろ姿を、箱のからほっとしたいで見送る。

ようやく最初の包みが売れたのだ。

が傾く頃には、並べた粕漬けの半分ほどが売れていた。元に残った銭を数えながら、おはこのさな歩からしずつでも暮らしをて直していこうと改めてを決めた。

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粕漬けの商いを始めてほどが過ぎていた。

の良さは所にもられるようになり、常連と呼べる客もしずつ増えている。それでも、帳面をつけるおの顔はれなかった。

粕漬けは包み文で売っていたが、所代、野菜代、酒粕代、箱の修繕代を差し引くと、元に残る銭はわずかだった。

の売りげを数えても、文にも届かないがほとんどである。

粕漬けは持ちがするべ物だ。の客が買えば、次に買いに来るまでしばらくが空く。売れきが悪いわけではないのに、銭が回っていかないのだ。

夜、灯の元で帳面をめくりながら、おはため息の代わりに算盤の珠を静かに弾いた。

そんなある、箱のに恰幅の良い男がった。郎といい、寺の雑用をに引き受けている寺男である。

代の半ばを過ぎ、べることに目がなく、ったことをすぐにする男だった。声も倍きく、寺の境内ではどこにいても郎の声が届くと言われている。

参詣客の好みにも、町のどのが繁盛しているかにも、郎より詳しい者はいなかった。

「これはなかなかいい匂いだ」

郎は瓜の粕漬けを切れつまみ、へ放り込んだ。きく目を見き、もぐもぐと頬張りながら何度も頷く。

「こいつはうまい」

郎はのをみ込むと、もう切れつまみ、今度はゆっくりとわった。

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町のには詳しい彼が、これほど素直に褒める品はない。

「うまい。実にうまい。だが、寺参りの帰りに瓜本をかじる者はおらんぞ」 「それはどういうことでしょうか?」

おが尋ねると、郎はきな声で答えた。

「参詣は、そのでぱくりとえるものか、そのままにできる軽なものを探しておるのさ。この粕漬けはうまいが、持ち帰っての膳にす品だ。今すぐ欲しがる客はなかろう」

郎はそう言うと、残りの粕漬けをもうつ買い求め、箱の脇に銭を置いていった。

郎の言葉に、おは返す言葉がなかった。の良さと商いのさとは同じではないのだ。

それでも郎は、それから幾度となく箱のにち寄り、粕漬けを買っていった。

それから半ほどが過ぎた頃、町役の使いがおの元へ町名主からの呼びしを告げに来た。

お常の元が消えていることに気づいた聖治郎が、おを疑い町名主へ訴えたのである。

名主のの座敷には、聖治郎と、証として呼ばれた酒井の番が並んで座っていた。おが入っていくと、聖治郎はちらりとこちらを見ただけで、すぐに目を逸らす。

名主のに座らされたおは、懐から漆塗りの箱を取りし、証文の原本とお常の印、そして元であることを示すき付けを差しした。

「これは、お常様がご命のうちに、私へお譲りくださったものです」

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