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"跡取りを産めぬと追われた嫁と、姑の漆塗りの小箱" 第9話

佐吉はそう呟くと、のへ戻っていった。おもまた、目先の儲けより困ったへ饅を届けることを迷わず選んでいた。

互いにそれをにしたわけではないが、はこの数で、相がどういうかはっきりとることになったのだ。

郎は寺に集まった炭とべ物を見渡し、必な所へく振り分けていった。

「寄りのいる部には炭を集めろ! 子供のい部には温かい饅をめに配れ! こっちはりてる、あっちへ回せ!」

普段のげさな物言いが、混乱する々をまとめる声として、このばかりは役にっていた。誰も彼もがげな顔をするで、郎の声だけがいつも通りの調子を保っていたのである。

はそれからほどり続いた、ようやく空がれた。

積もったのから、踏み固められたがしずつ姿を現す。寺に避難していた寄りや子供も、、またとそれぞれのへ帰っていった。

が溶け切った頃、おのには以よりもくの客が集まるようになっていた。困ったに何をしていたか、町の々はよく見ていたのである。

饅を買いに来る客のには、寺で世話になった老の姿も混じっていた。

のがけ、を迎えるとはさらに客を増していた。せいろの数も雇い入れた伝いの数も、とは比べ物にならないほどに膨らんでいる。

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ある、炭を運び終えた佐吉は、荷をろしたまますぐには帰ろうとしなかった。空になった俵の紐をもなく結び直している。

「佐吉さん、何か忘れ物でも?」 「……忘れ物じゃねえ」

佐吉は俯いたまま、まで赤くしていた。それでもを決したように顔をげる。

「おさんののは聞いてる」

佐吉はボソリと言った。

「ののことも、何もかもだ。だが、俺には関わりのねえことだ」

顔をげた佐吉のはまだ赤いままだった。

「炭を売るだけの男だが、俺と緒にならねえか」

そう言い切った佐吉は、線だけは真っ直ぐにおに向けていた。おはすぐには答えず、幾か考えるをもらった。

数、炭を届けに来た佐吉に、おはい切って尋ねた。

「私は子ができないかもしれません。それでもよろしいのですか?」

佐吉はを置かず、首を横に振った。

「そんなことはどうでもいい。俺はおさんがいい」

おはしばらく目を伏せていたが、やがて顔をげた。

「……お願いいたします」

佐吉はおのをそっと握った。

「ありがとう」

そのだった。

「おさん、粕漬けまだあるか!」

郎が勢いよく簾をくぐって入ってきた。は弾かれたようにをし、互いからび退いた。

佐吉は顔を真っ赤にしたまま、郎に会釈もせず逃げるようにをていく。

「なんだなんだ、どうした? おもい饅でもったか?」

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郎はそう言いながらふとおの顔を見て、にやりと笑った。おの方も佐吉に負けず劣らず赤くなっていたのだ。

「佐吉のことは俺が請けう。ああ見えて、男のの男だ」

郎はそれだけ言うと、嫌よく笑いながらまたをていった。

婚姻の話が具体になった頃、おと佐吉は漆塗りの箱を携え、町名主のを訪れた。

おは箱から、聖治郎より受け取った縁状を取りす。状には、この余りのに幾度かいては畳み直した跡がうっすらと残っていた。

町名主は文面と差を確かめ、おと聖治郎の縁がすでに切れていることを確認した。

「確かに、再縁を妨げるものではない」

確認を終えた名主は縁状をおへ返した。おはそれを再び漆塗りの箱へ収める。

酒井をた、おの別帳はのある町へ移されていた。佐吉との婚姻が決まると、町名主はその記載を改めるための続きをめた。

婚礼は郎や所の顔馴染みだけを招いた、ささやかなものだった。

祝言を終えてからも、はおが、炭商は佐吉が、それぞれ切り盛りを続けた。佐吉は相変わらず数なく、の商いにを挟むことはない。

ある朝、おは体の変化に気づいた。のものが幾も止まったままだったのだ。

もしやといういが胸をよぎったが、もの度として授かることのなかった命である。

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