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"跡取りを産めぬと追われた嫁と、姑の漆塗りの小箱" 第11話

おの腕には、さな子が抱かれていた。子は湯気を珍しそうに見つめ、さなを伸ばしている。

おはその子をあやしながら、隣につ佐吉と何か言葉を交わして笑った。、酒井ので寺参りの親子連れを見つめていた女とは、まるで別のようなるさだった。

聖治郎は、跡取りを産めぬと責め追いした女が、別の所で母となっている姿をまざまざと見せつけられた。

だが、聖治郎にいらされたのは、子のだけではなかった。

おは自分の技術だけでを築きげ、自分を尊する夫と穏やかな庭を持っていた。そこには聖治郎を必とする隙など、どこにもない。

聖治郎はおの名を呼ぼうと歩にた。喉元までその名がかかっていた。

だが、佐吉と顔を見わせて笑うおの様子を見た瞬、喉の奥で声がなくなった。

「へえ、次のお方どうぞ!」

郎の声が響き、列がまた歩へむ。聖治郎はその流れに押しされるように、先かられていった。

おは聖治郎が来ていたことに気づかなかった。

聖治郎は通りのない裏まで来ると、度だけを止めた。何かをにしかけたが、結局声にはならなかった。

やがて聖治郎は再び歩きし、度も振り返ることなく町をにした。

そのの夜、を閉めたおは、まいの奥にしまってあった漆塗りの箱を取りした。

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にはお常から譲られた証文、元についてのき付け、そして聖治郎から受け取った縁状が今も切にしまわれている。

おは眠る子の顔を見つめながら、いつかこの子にも、お常の名と、この箱に込められたを伝えてやろうとった。

これから幾も、おのは町で商いを続け、季節ごとに移ろう客の顔を絶えず迎え続けた。

桜が咲けば見帰りの客が、には涼を求める客が、がまれば葉狩りの客が、蒸したての酒饅を求めて列を作った。

佐吉は変わらず炭を運び続け、郎はを取ってもなお寺の境内で、誰よりもきな声を響かせていた。

子供は々の湯気と客の声を聞きながら、しずつきくなっていく。

の値打ちは産んだ子の数でも、まれたの格でもなく、自らので築いたもののにこそある。

そのことをおは誰に語るでもなく、静かな商いので示し続けていた。

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